物価高で「余裕のある人」が減っている

現在の落ち込みは、コロナ禍の影響なのでいずれ回復するとも考えられるが、前述のように2023年の出国者数はコロナ前の半分程度までしか回復していない。原油高によるサーチャージ(燃料加算)の増加や円安が渡航費を押し上げている一方、賃金の上昇はあるものの、昨今の食費や日用品の値上がりで実質賃金は2023年もマイナスとなっており、海外に行く余裕のある人は経済的な観点からも少なくなっている。

この傾向は当面続くであろうし、海外旅行は一度行けばその魅力に取りつかれ何度も行きたくなる反面、ある年齢まで一度も行かなければ、渡航意欲は高まらないことが想像できる。パスポートが手元にない、だから海外に行こうというモチベーションもない、という悪循環に陥るわけである。

写真=iStock.com/Yusuke Ide
※写真はイメージです

渡航客の減少はビジネスにも影響する

日本人の渡航者の減少は、国際路線を誘致した地方空港では、路線の存続にも影響しかねない。そのため、特定の空港から出国する日本人に対し、金銭的な補助を始めたり、検討したりしている自治体もある。

海外からの誘客は相手国の事情に影響されやすく、外需頼みでは一気に雲散霧消することもありうる。そうなれば、ビジネスなどで路線が必要な層にも影響が及ぶ。とはいえ、こうした補助予算は、訪日客の誘致、あるいは海外からの留学生の誘致などにつぎ込まれる予算に比べれば微々たるものになっている。佐賀県では、九州佐賀国際空港から国際線を利用して渡航する2人以上のグループに1人当たり片道最低1000円を補助する「国際線グループ旅行支援」をコロナ禍以前から実施している。

もちろん、見方を変えれば日本にはまだあまり知られていない場所も多く、かえって海外の観光客にそうした隠れた魅力を教えてもらっているようなメリットもある。日本人ならば海外にばかり目を向けず、日本の良さをもっと知ることも大切だ、という声もあろう。日本の都道府県の正確な位置や県庁所在地もうろ覚えの人が少なくない実情を見ると、「まず国内を知ろうよ!」というのもあながち間違いではない。