親から暴言を受けて育つと聴覚野に影響
今回、筆者が取材したサバイバーの中には母親から父親についての愚痴を聞かされていた人がいたが、ああした行為もマルトリートメントであり、脳に影響してしまうのだ。
「子どもにとっては大人になった頃に、両親のどちらかが、もう片方の悪口を言いまくったとずっと残ります。子どもにとってはどちらもかけがえのない親です。そして、怒鳴ったりなじったりするだけではなく、他人を誹謗中傷するような言葉を聞かせたりするのもマルトリートメントです」
また、子どもに対し直接暴言を言うマルトリートメントである暴言虐待は、言語やコミュニケーションに関する領域である聴覚野を変形させていた。
「ここでいう暴言とは、『お前は生まれてこなければよかった』や『死んだほうがマシだ』などといった存在を否定するような言葉から、大声を上げたりヒステリックに怒鳴ること、『言うこと聞かないとぶつよ』などのような、実際に行為をするかにかかわらず危害を加えることをほのめかす脅し、あるいは『お前は本当にダメだね』などというような過小評価の言葉です。これらの言葉は、どれをとっても親から子どもに浴びせる言葉ではありません」
他人とのコミュニケーションが妨げられる
実際に、これらの暴言によって、左半球聴覚野の一部である「上側頭回灰白質」が平均より14.1%も肥大していたのである。
聴覚野は、言語にかかわる領域であり、他人の言葉を理解したり会話やコミュニケーションに深く関わる部位だ。この部位に異常をきたしていたのである。
萎縮しているのも問題だが、肥大もまた別の問題を生じさせる。というのも、乳児期にはシナプスの数が爆発的に増えるが、あるレベルを超えると脳の中で余分なシナプスを刈り込み、神経伝達を効率化する剪定のようなことが行われるのだという。
「本来行われるはずだった剪定が行われずに、シナプスが荒れた雑木林のようになってしまうのです。うっそうと茂った木々の中では、神経伝達が効率よく行われず、結果として、言葉の理解力の低下や、小さな音や他人の会話が聞こえにくいなど、聴力には問題ないはずなのに心因性難聴などの症状に繫がってしまうのです」