複雑性PTSDの深刻な生きづらさ
「一昔前では、アメリカでも幼少期のトラウマを大人になってからカウンセリングでアプローチするやり方が主流でした。『大変だったね』『しんどかったね』と共感してあげる認知行動療法は今もなされています。
ただ、早い時期であれば、認知行動療法で治療することもできるかもしれませんが、何年もストレスを受け、大人になってからも何回もフラッシュバックを繰り返しているような場合は、複雑性PTSD(慢性的な心の外傷体験が原因となり発症する精神障害で、感情の制御が困難になったり、自己評価の低下や対人関係などの困難を引き起こす)になってしまいます。
私の患者さんの中にも複雑性PTSDの方がたくさんいらっしゃいますが、マルトリートメントを受けて複雑性PTSDを発症した人たちの生きづらさは計り知れないんです。だからマルトリートメント被害者に接する場合は、彼らはいまだに心の傷が癒やされていないという前提でアプローチしていく必要があるんです」
虐待サバイバーたちの脳を調べた結果…
しかし、「心の傷」は、どれだけ深く傷ついたとしても、目に見えることはない。
友田氏は、そうしたマルトリートメントで受けた、見えない「心の傷」をどうにか可視化できないかと、2003年にハーバード大学において、マーチン・タイチャー博士とともに研究を開始する。
マルトリートメントによって、心だけでなく脳にもダメージを受けるはずだ。そして、それはおそらく感動や興奮などの情動や記憶と関連する「海馬」や、過去の体験や記憶をもとにした好き嫌いなどの判断、危険察知で反応する「扁桃体」、危険や恐怖を制御する「前頭前野」などの部位がダメージを受けるのではないかと友田氏らの研究チームは予測した。
そして、1455人の被験者を対象にスクリーニングを行い、さまざまなタイプの虐待曝露を受けた若年成人の脳MRI(磁気共鳴画像化装置)を使って撮影し、マルトリートメントを受けていない人の脳画像と比較検討したという。
その結果わかったのは、なんとさまざまなマルトリートメントを受けることで、「脳の大事な部分に傷がつく」ということだった。