自分たちの手で文化財を守りたい

ただし、口で言うほど簡単ではない。安く売ることに慣れてしまっていた立花社長自身はおっかなびっくりだった。その背中を押したのは社員たちだった。

「私はすぐに値下げしたらと言ってしまうタイプなので、マインドが弱いんですよね。でも社員の皆は、安くしても誰も来ないのだから値下げする必要はないと」

価値を正当化するために安売りをしない。これは日本の文化財保存にも大いに関わるという。日本の場合、文化財を民間が維持できなくなり国に手渡すことが多い。すると一体何が起きるのか。立花社長が解説する。

「(経済的な理由などで)文化財を守れないから結局、国や行政にお任せして民間が手を引きます。そうすると、入館料はタダになることも多い。でも、多くの人はタダだったら大したことないって思いますよね。それが日本の文化財の価値をどんどん下げていく一因だと考えています」

先祖から受け継いだ御花はそうしたくない。だから必死で維持しているわけだが、当然コストは莫大にかかる。

「2016年に大広間の修復工事をしました。費用の半分は国の補助金が下りましたが、何年も前から計画を練り、国にお伺いを立てながら進めなければなりませんでした。民間の工事と違って研究調査しながら修復していくので、期間も非常に長いです。でも当然、その間も私たちは稼がなくては駄目です。修復工事はリニューアルではないため、そのことでお客さんは増えません。柱が真っ直ぐになりましたとか、耐震構造ができましたとかなので。そうすると、修復工事によって売り上げがアップするような事業計画は簡単に作れなくて、どうやって銀行に借入金を返済すればいいのか頭を抱えました」

写真提供=御花
西洋館

文化財という商品に「適正な値段」を付ける

それでもやる理由は、文化財を維持する民間の模範にならねばという使命感があるからだ。そのためには文化財という商品に対して適正な値付けをする。これがコロナ禍を経てたどり着いた立花社長の答えだった。

手本にするのはヨーロッパ。当地では文化的な施設に対して高い入場料をとるが、観光客もその意味を理解している。であれば、日本でもその理屈は通用するわけだ。