熟年夫婦ほどお互いのことがわからない

夫婦が長く連れ添っていれば、それだけお互いのことを知っているかのように思ってしまうものです。けれどもそれは単なる思い込みにすぎません。たとえ30年連れ添ったとしてもやっぱり相手のことはよくわかっていない、と思っていたほうがいいでしょう。

バーゼル大学(スイス最古の大学です)のベンジャミン・シーベーンは、連れ添って平均2年1カ月しか経たない38組の若い夫婦と、連れ添って平均40年11カ月という20組の熟年夫婦に集まってもらって、食べ物の好み、映画の好み、家具の趣味など、118項目について調べました。自分がどれだけ好きかを答えるだけではなく、パートナーが同じものをどれくらい好きだと思うかにも答えてもらったのです。シーベーンはそれをお互いにやってもらうことで、パートナーの好き嫌いについての推測がどれくらい当たっているのかを調べてみました。

すると、若い夫婦での正解率は42.2%でした。半分以上は外れてしまいましたが、それでもまずまずの正解率だといえるでしょう。では、熟年夫婦ではどうだったのでしょう。さすがに40年以上も連れ添った夫婦なのだから、相手がどんなものを好きなのかくらいは朝飯前に当てることができたのでしょうか。

いえいえ、そういうことにはなりませんでした。熟年夫婦での正解率は、若い夫婦の正解率を下回る36.5%だったのです。ただ単に長く連れ添っているからといって、相手の好みまで完全にわかるのかというと、そんなことはありません。

妻は妻で、「うちの夫はすき焼きが大好物」と思っていても、夫は夫で、「すき焼きは嫌いではないが、そんなに好きでもない」と感じている。そんなズレはよくあることなのです。

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面白いことに、シーベーンは、それぞれの好き嫌いの推測をしてもらうときに、「確信度」についても調べました。「自分の予想がどれくらい当たっていると思うか?」を尋ねたわけですが、熟年夫婦ほど「私の予想は当たっているはず」と答えることがわかりました。

「私は妻のことなら何でもわかる」
「私は夫のことなら自分のこと以上によく知っている」

そう思う熟年の夫婦がいるとしたら、単なる思い込みかもしれません。もちろん、それでも何十年も連れ添っていられるわけですし、本人たちが幸せだと感じられるのなら何も問題はないのですが。