精神的につらかった仕事と子育ての両立

育児休業を取得したのも、最勝寺さんが社内初だった。1993年7月に女の子を出産したときのことだ。

出産後に職場復帰するケースが少なかった時代。産休の制度はあっても育休はなく、各職場の対応に任されていた。復帰できるのは親と同居しているなど、誰かに子どもを託せる人がほとんどだった。

撮影=遠藤素子
「外線電話が鳴ることが珍しい部署で、電話が鳴るときはたいてい保育園からだった」と語る最勝寺さん

最勝寺さんは出産を数カ月後に控えた頃、会社に育休制度をつくるように頼んだ。職場に復帰したのは翌年4月。しかし、仕事と子育てを両立する苦労は並大抵ではなかった。

最勝寺さんがいた経営管理部の外線電話が鳴ることは珍しい。鳴るとたいてい保育園からで、子どもが熱を出したから迎えにきてほしいといった内容だった。

「職場を出るときは同僚たちに申し訳なくて罪悪感でいっぱい。あんなに気をつけて頑張っていたのにどうして熱なんか出すの……と思いながら保育園に着くと、顔を真っ赤にしたわが子が私を見た途端に泣きながら手を伸ばしてくる。子どもと荷物を抱えながら帰るときは涙がボロボロ出ました。こんどは子どもに申し訳なかったという罪悪感でいっぱいでした」

思い出すたびに胸をしめつけられるが、社内の女性活躍推進を考えるうえで貴重な体験となった。

自分が味わった罪悪感を社員に経験させたくない

近年SNSでは、子育て中の従業員が「子持ち様」と呼ばれて話題となった。子どもが急に熱を出して休んだときなど、業務が増えた周囲の人が「子持ち様のお子が熱を出して本日また突休」と皮肉をこめて投稿するケースだ。共感する側と批判する側の論争に発展したこともある。子育てと仕事の両立に悩む従業員と、業務が増えて迷惑を被ったと感じる同僚の軋轢が露わになった。

「子持ち様という言葉は初めて知りました。当社ではクローズアップされませんが、潜在的にないとはいえない問題です。子育て支援の制度はかなり拡充され、休暇や早帰りは権利になっています。かつての私みたいに職場と子どもの双方に罪悪感を覚えて悩む社員を減らしたいと思います。

ただ、業務をカバーする側も人間ですから負担感は当然ある。相応の配慮と感謝の気持ちは必要で、同じことは男性にも、介護をする人にもいえます。家庭内と同様に、職場にも互いに助け合う風土を醸成することは重要ですし、業務の過度な皺寄せが発生したり、休暇が取りにくい状況になったりするのを防ぐために、人手不足に対応していくことは会社にとっての課題です」