最後までどうぞご安全に
具体的には車両の加速度を2回積分して位置、つまりレールの位置を求めるのだ。高校では位置を時間で微分すると速度、速度をさらに微分すると加速度となると習うので思い出した人もいるだろう。
慣性測定法は検測が容易だが、速度が落ちると精度が下がり、列車のスピードが時速70キロ未満に落ちると検測できない。しかも、検測可能な軌道のずれは上下方向だけだ。
ドクターイエローと比べると大変心もとないように見えるが、不足する検測データは加速度センサーで車両の揺れを計測して補っている。その考え方は次のとおりだ。
「動揺測定は『乗り心地が一定水準に保たれていれば走行安全性を損う軌道状態となる可能性は極めて低い』という考えに基づいて実施されている」(永沼泰州、「4 営業列車による軌道検測」、「新線路」2010年12月号、鉄道現業社、P35)
さすがにドクターイエローから営業用車両での計測のみに置き換えるにはもの足りないと考えたらしい。JR東海は加速度のほかにジャイロスコープや小型のレーザー光測定装置を追加している。
この結果、検測可能な内容は左右方向も可能となったうえ、独自開発の演算プログラムで解析することでスピードが時速30キロでも検測できるようになったという。
営業列車が時速30キロ未満で走行する区間は駅構内だけと言ってよい。こうした場所は夜間に保守用車で検測すればよいので、十分実用的かもしれない。
東海道・山陽新幹線の線路を念入りに、軌道に至ってはなめるように検測するドクターイエローの活躍もカウントダウンの段階に入った。
そうは言っても見かける機会の少ない車両なので恐らくは人知れず引退するのだろう。最後の日まで何事もなく、新幹線の安全を守ってほしいものだ。