患者が集まりやすいのは「精神科」より「心療内科」

精神科医がクリニックを開業する際、「精神科」という看板を大々的に掲げるケースはあまり多くありません。

昔にくらべると精神科の敷居がだいぶ低くなったとはいっても、いざ受診するとなると躊躇する人が多いためです。「私は心の病気であって、精神科の病気ではない」といい張る人もいます。

そのため、「精神科クリニック」ではなく、「心療内科クリニック」「メンタルクリニック」「こころのクリニック」といった名称がよく使われます。そちらのほうが患者さんが集まりやすいからです。

このうち、メンタルクリニックやこころのクリニックは、精神科、心療内科のいずれか、またはどちらの診療も行っているクリニックのことです。

他方、精神科と心療内科は本来的には別の診療科で、精神科はこれまで述べてきたように、心の病を診ることを専門としています。

これに対して心療内科は、本来はストレスなどの心理的な影響で「体」に症状が出ている人を対象とした診療科(内科)です。心因性のぜんそくや腹痛、じんましん、高血圧などの患者さんに対し、心身の両面から治療を行います。

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しかし実際には、軽いうつ、適応障害、発達障害など、本来は精神科を受診すべき人たちが、「精神科には行きたくない」という理由で、心療内科を受診するケースが多くなっています。

「心療内科」を標榜する、内科の研修を受けていない精神科医たち

それは厳密にいうと間違っているのですが、ややこしいことに、心療内科クリニックという名称であっても、そこの院長は精神科の専門医であることが多いので、心療内科クリニックでも、うつや適応障害、発達障害などの患者さんを診ています。

「ならば、精神科医が開業したクリニックなのに『心療内科』という看板を掲げているのは、本当は違法なの?」

頭がこんがらがってきますね。

結論を先に言えば、違法ではありません。

大学の医学部では、精神科には精神科の専門医の資格をもった医者がいて、心療内科には心療内科の専門医がいて、両者はきっちり分かれています。

しかし、大学を離れてクリニックを開業する場合、日本では医者の免許をもっていれば、どの診療科を標榜しても構わないことになっています(「麻酔科」は例外)。

そのため、精神科医が開業するときには、患者さんの集まりやすい「心療内科」も併せて標榜することが多いのです。

違法ではありませんが、精神科と心療内科では身につけるべきスキルが異なります。したがって、患者さんの混乱を避けるためにも、精神科医が心療内科を名乗るのは避けたほうがいいと思います。

たとえば、私は精神科医ですが、医学部卒業後に医局を選ぶ際、心療内科で仕事をしようかと考えたことがありました。

ところが、内科の研修を終えてからでないと心療内科には入れないと、その当時はいわれました。つまり、心療内科で患者さんを診るには、内科のスキルがある程度必要だということです。