それでも名作に届かない理由

以上のように同作は地上波ドラマにない快作だ。“攻めた”設定、キャスティング、エログロを含む刺激的なシーンの連続、騙す側と騙される側の手に汗握るスリリングな展開、その大きな波に3つの組織内での中波や小波が巧妙に絡まって中毒性の高いエンタメになっているからだ。

それでもSNSには気になる声もある。

「ハラハラしながら最後まで気が抜けなくて一気に見終えた。けど……」
「イッキ見してこの時間や後味悪すぎるわ、もうええでしょ〜」
「面白かったけど観たことを後悔する部類のドラマだった」
「ただ闇雲に思慮浅く殺して良いのか? もう少しキャラを深掘りした方が良かった」
「実際に(死人が)ゴロゴロ出るのはいいんだけど、もうちょっと重みを出して欲しかった」
「(当初は)感動してたけど(中略)最終回は終わりよければの逆をいかれてしまった気持ち」

要はエンタメしての刺激に満ちてはいるが、残るものに欠けると感じた人が少なくない。

作り手は視聴者を虜にするために、速いテンポで強い刺激を連打した。ところが見る側は、一つひとつのシーンなり出来事を咀嚼し、意味を確認したい人も少なくない。

登場人物の中に共感できる人を見つけたいという思いもある。

ところがエンタメとしての面白さを優先し、個々の登場人物の事情や心情は後回しで、深堀りしない方針も引っかかったのだろう。

写真=iStock.com/SvetaZi
※写真はイメージです

私の知人に世界発信を前提としたWebドラマの分析に関わった人がいる。

彼によると配信サイトは、エンタメとしてのクオリティは重視するが、アカデミー作品にあるような普遍性は求めないという。とにかく「世界でどれだけ売れるか」が最優先なのである。

例えば地面師グループの交渉役・辻本拓海(綾野剛)。

不動産詐欺の被害に遭い家族を失った過去を持つ。ハリソン(豊川悦司)に地面師として育てられたが、実際はハリソンが自分の家族を壊した黒幕と知り嘔吐してしまう。そしてハリソンの異常性と決別することを決意する。

つまり数少ない人間性が描かれた登場人物だが、その彼の地面師として極端に振れていた心情が“心の恒常性維持機能”で元来に戻ったことにどんな意味があったのか、視聴者はそこにどう共感したら良いのかがわからない。受け取るべきメッセージが不在なのである。

名作ドラマには3つの要素がある。娯楽性・時代性・普遍性だ。

娯楽性はいうまでもなく、面白いがゆえに視聴者を惹きつける力だ。時代性とは「なぜ今なのか」、見る理由を強化するテーマだ。そして普遍性とは、見終わっての感動や感嘆など、視聴者の心をどれだけ揺すぶったのかだろう。

これら3要素がバランスよくあると、人々は作品を深く心に刻み込む。

ネット記事のライターの中には、「後世に残る歴史的価値の高い作品」と絶賛する人がいる。ところが娯楽性に特化し、時代性や普遍性を欠いた同作は、“後味の悪さ”に象徴されるように、強烈な作品として消費されて終わりなのではないだろうか。

“一気見”するほどの中毒性は裏腹だ。そこまで引き込んだ結果としての落とし前というか、答え合わせが求められるが、残念ながら同作には見当たらない。

世界発信を前提としたWebドラマは、最大多数を相手にしない。

一地域ではごく少数の支持でも、世界で一定数の視聴者をゲットすれば成功だからだ。例えば日本で0.5%・50万人にしか受けないとしても、世界の0.5%は3000万人以上の大ヒットだ。地上波ドラマは長年最大公約数狙いだったが、Webドラマでは一部ターゲットに絞り込んだ作品も作れるようになっている。

ところがその作戦は極端な路線でも成功する。結果として名作3要素的にはバランスの悪い、歪な物語になってしまう“落とし穴”がある。

より多くの人を深く納得させるメッセージ。さらに心を揺さぶる普遍性を加味したら、どんな作品になっていただろうか。別バージョンを見たくて仕方のないドラマだった。

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