「悪いことをしている」という認識が薄い
2018年、元DeNA、巨人の投手だった井納翔一は、掲示板に夫人の容姿を中傷する書き込みをされた。そこで井納はプロバイダーに情報開示を求めて投稿者を突き止め、書き込んだ女性に191万9686円の損害賠償を請求した。
他の例になるが、被害者から告訴され、損害賠償を支払うことになった人の多くは「ほんの軽い気持ちで書き込んだ」とコメントしている。「悪いことをしている」という認識さえ、希薄なのではないかと思われる。
こうした事例はぼつぼつ出てきているが、匿名の誹謗中傷者を情報開示によって特定して、謝罪させ損害賠償まで持っていくのは、時間もかかるし被害者側にとって大きな負担になる。少しずつ状況は改善されているが、まだ被害者の多くが泣き寝入りしているのが現状だ。
この問題はデリケートだ。確かに誹謗中傷の被害はなくしていきたいが、そのためにSNSのコミュニケーションをやめることはできない。またガードを高めてしまえば、アクセス数が減り、マーケティングに影響が出る。
かつては「有名税」という言葉があった。芸能人やスター選手が、一般人から心無い言葉を浴びされるのは「有名人だから当たり前」。その代わりに「いい思いもしているのだから」。
しかし有名人であっても人権は尊重されるべきだ。有名税という考え方は、今では否定されるべきだろう。
誹謗中傷をするような人は、もはやファンではない
一部の残念な人にとっては、誹謗中傷が、自らが安全な場所にいて、有名人に対して好き放題の言葉を投げかけることができるレジャーのようなものになっている。そういう人はどんなことでも言いがかりをつけて誹謗中傷するわけだ。
競技団体や選手は、誹謗中傷に対して引き続き、毅然とした姿勢で対応すべきだ。情報開示を請求し、人物を特定して罪を償わせることは当然だが、それに加えて、そういう誹謗中傷がいかに卑劣で、選手を傷つけるかを、世間にもっと周知させることも大事だろう。
しかし誹謗中傷に対する団体、選手のメッセージはまだ控えめで、遠慮がちな印象だ。きついメッセージをすれば、ファンを失うのではないか、と危惧しているのではないか。
しかし誹謗中傷をするような人は、もはやファンではない。
もっとはっきりと誹謗中傷の罪の深さをアピールしなければならないのではないか?
例えば、試合前に各球団のスター選手がスクリーンに登場して
「私たちは、ファンの皆さんのために一生懸命プレーしている。でも、私たちだって人間だ。心無い言葉を投げかけられれば、傷つくし、プレーをする気持ちが萎えてしまう」
などのメッセージを、はっきりと発信してはどうか。
残念な人たちは、そこまで言わないと気が付かない。自分たちがしていることが、どれほど問題があるかに、思いが至らない。
そういう形で、プロ野球界のみならず他の競技も含めた、スポーツ界全体による「No! 誹謗中傷」キャンペーンを展開すべき時期に来ていると思う。