ユーモアと人間味で熱心なファンを獲得してきた

サウスウエスト航空はユニークな会社として、利用者を集めてきた。利用者はもはや顧客というより、ファンに近い存在だ。

ユーモアを愛する企業としても親しまれる。パイロットが行ったラップ調の機内アナウンスや、頭上の荷物入れ(オーバーヘッド・コンパートメント)にキャビンアテンダントが隠れて乗客を迎えるなど、ときおり繰り広げられるサプライズで話題を集めている。

社員を家族のように愛する社風でも知られる。2022年には、母と娘が機長と副操縦士として、同じ便に乗務したことで温かい話題となった。

娘と乗務した機長のホーリー・ペティットさんは、朝の情報番組「グッドモーニング・アメリカ」に、「小さな赤ちゃんを腕に抱いていたかと思ったら、気づけばあっという間にフライトデッキに座っているんです」と喜びの胸中を明かした。

サウスウエストはニュースリリースで、「人間を第一に考える企業」であると強調し、だからこそ親子のパイロットが誕生したことに興奮している、と述べている。日に4000便を飛ばす同社で2人は“偶然”同じ便に乗務したが、そこには社としての取り計らいがあったことだろう。

写真=iStock.com/Angel Di Bilio
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ファンを切り捨て「目先の利益」を優先するべきなのか

こうした温かい話題の一方で、アメリカ文化の象徴とまで言われ、半世紀以上にわたり愛されてきたオープンシート方式が幕を下ろそうとしている。

一企業として、利益を追求するのは当然の姿勢だ。しかし、ファンと共に成長したサウスウエスト航空の突然の方針転換は、長期的に吉と出るか。人間第一の姿勢を打ち出し、従業員にも顧客にも誠実であり続けたからこそ、競争の激しい航空業界で成長を遂げられた。

オープンシート方式の廃止で、熱心だったファン層は一定程度離れるだろう。フルサービス・キャリアと格安勢に挟まれながら、なおも同社の強力なアピールポイントとして機能してきた、最大のアイデンティティを失うことになる。

歴史的に何の関係もなかった「物言う株主」が主導する「改革」により、企業文化の中核を成してきたサービスのひとつが消失しようとしている。短期的に収益性は向上するだろうが、ほかの格安航空と変わらなくなったサウスウエストは、引き続き強い訴求力を維持できるか。急旋回した同社の針路に、嵐の予感が立ちこめる。

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