「自衛隊=レスキュー隊」ではない

――有事の際に心配なのは「自衛隊の本来任務」が国民に理解されているかという点です。自衛隊に対する国民の信頼度は高まっていますが、それは「侵略してくる敵と戦う自衛隊」では必ずしもないのではないか、と。

そこは私も強い懸念を抱いているところです。国民にとって、自衛隊は災害派遣のイメージがかなり強くなり、「何かあったときに助けに来てくれる」というレスキュー隊のように感じている人が多いのではないでしょうか。

写真提供=共同通信社
全域が焼失した「輪島朝市」で捜索する自衛隊員=2024年1月10日午前、石川県輪島市

実際には、災害派遣は副次的な任務であって、主たる任務は国防です。他国からの侵略を受けた場合に対処するのが自衛隊の仕事であって、もしもの場合にはそちらに能力を振り向けるので、災害派遣時のような国民への直接の支援は難しい。

この違いに対する理解がどこまで国民の間に浸透しているか……。これはかなり気がかりで、有事の際に「自衛隊に期待していたことと違うことをやっている」という批判が出るのではないか、という懸念はあります。

――災害派遣自体は被災者も助かるし、自衛隊自体も訓練の成果を発揮でき、やりがいがあって隊員の士気を高める、国民からは感謝されるという、大事な仕事ではあるのですが。

広報効果という意味でも大きいでしょう。しかし前提としては災害時には地方自治体と警察・消防が第一に対応に当たるのが大前提であり、それでもキャパシティが足りないところを自衛隊が補う形になっています。

災害時のように国民を助けるとは言えない

災害対応の手が足りないのであれば、本来は自衛隊に頼るのではなく、担当の行政機関の能力を底上げしなければなりません。

また、有事と災害時の違いについても知っておく必要があります。災害派遣は発生時点が最も状況が悪く、もちろん余震などもあり得ますが、状況がそれ以降、劇的に悪化することはほとんどありません。綿密な計画を立てておけば、二次被害、三次被害は生じにくいといいます。

一方で戦争は、始まってしまうと状況は二転三転しますし、隊員数も死傷などによって損耗していきます。その中で自衛隊が国民保護までを災害派遣時のように実施するのは無理です。

ただでさえ人員が足りないという状況を鑑みても、自衛隊は本来の任務に専念した方がいいのかもしれません。

あるいは大きく体制を変えて、災害派遣専門の部隊を作るか、実戦担当部隊を切り離して待遇を変えるなどの対策を打ち、国民にも「自衛隊は何のためにあるのか」を、いま一度、振り返ってもらう必要があるのではないでしょうか。