「丸刈り強制でうつ病」は認められず

【松】似たようなケースで、こんな判例があります。2017年、熊本の公立高校で「ソフトテニス部事件」というのがありまして。ある新入生がソフトテニス部に入って、先輩に丸刈りを半ば強制されるなどしてうつ病になり、退学せざるを得なくなった。そして、のちに元生徒は学校に対して損害賠償請求をしたんです。

中村計『高校野球と人権』(KADOKAWA)

その部では大会前に全員で丸刈りにするのが恒例で、大会を前にし、練習後に先輩がバリカンで1年生の頭を刈ったそうです。その際、本人も嫌な素振りは見せなかった、と。だから、学校側は丸刈りは強制ではないと主張していて、裁判所も強制ではなかったと認定しているんです。

【中】嫌とは言えなそうな雰囲気が伝わってきますよね。

【松】先輩たちもみんな丸刈りにしている中、拒否はできなかったのだろうなと想像してしまいますよね。最近、性加害の問題で裁判所は被害を受けた側は拒否まではしなかったが本心ではなかったという判断をすることがあります。特に相手が権力者であった場合は、厳しく判断されています。この場合の丸刈りも状況は似ていると思いますが、この裁判はどちらかというと学校サイドに有利な判定が出たような気がするんです。ただ、今後はこのあたりのジャッジも変わってくるのではないでしょうか。

「坊主やめるか?」に隠された緩やかな強制

【中】最近、高校野球の現場でこういう話をよく聞くんです。監督が選手たちに「坊主をやめるか?」と聞いたら「僕らは坊主でいいです」と言ったのだ、と。だから、うちは選手の意志で丸刈りにしているのだという主張です。でも、このシチュエーションも、そう聞かれたらそう答えざるを得ないだろうなと思ってしまうんです。

【松】反抗したと思われたくないですもんね。

【中】緩やかな強制ですよね。

【松】本来、うちは選手の判断に任せているというのなら、監督が「うちは髪型は自由だ」と宣言すればいいだけのことなのです。それでも選手が自ら丸刈りにしてきたのなら、それは選手が好きでやっているのだと言えますよね。なのに、わざわざ「どうする?」と問いただしたり、学校で先輩が後輩の髪を刈るみたいな儀式を残したりしていると、どこかで強制されているという心理状況を生みかねないと思います。

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