校則が違法と認定されたケースは一つもない

【中】これまで丸刈り裁判で違法と見なされたケースはあるのですか。

【松】その校則自体が違法と見なされたケースは一度もありません。

【中】意外な気もします。

【松】これは裁判の大前提でもあるのですが、第1段階のルールそのものに関して争うのはとても難しいんです。1993年に当時、小学5年生だった児童の両親が進学予定だった小野中学(兵庫)の丸刈り校則の無効性を訴えようと裁判を起こしたことがありました。

ご存じのように日本の裁判制度は公正さを保つために計3回、審理を受けることができます。それぞれ「第一審」、「第二審」、「第三審」と呼ぶのですが、小野中学の裁判では、その三つの審理すべてで訴え自体が却下されています。

【中】裁判にすらならなかったわけですね。

【松】こうした結末を「門前払い判決」と呼んだりします。厳密には「門前払い」でもないんですけどね。却下されるまでに書面のやり取りはたくさんあるし、法廷にも立つので。ただ、そこまではしたものの、もっとも判断して欲しいところまでは辿り付けなかった、ということなんです。

裁判というものは、丸刈りのせいで精神的苦痛を受けて不登校になったとか、丸刈りを拒否したら退学処分を受けたとか、そのルールによって不利益を被ったときの方が争いやすいんです。被害がはっきりしているので。小野中学のケースはルール自体を不服としている上に、まだ入学すらしていなかったのでこの結果はやむを得ない気はします。

「ルールが存在すること」とそれを強制することは別

【中】「校則=強制」なのだと思っていました。

【松】とまでは言えません。もちろん、校則に違反していたら教師から「短くしてきなさい」くらいの指導は受けると思います。そう言われたら大抵の生徒は従いますよね。内申点を下げられたら嫌だなとか思って。

【中】実質、強制。

【松】なんですけど、法律的には校則として丸刈りが存在することと、それを強制することでは次元が違うんです。丸刈りではないからといって、先ほども言いましたが、その場で先生にバリカンで刈られるわけではないので。

そこは学校側も心得ていて、校則においても「強制」と捉えられるような書き方はしないものなんです。訴えられたとき、そこを突っつかれると不利になるので。タバコや飲酒に関しては、はっきり禁止と書いてありますが、身だしなみなどの規定はあくまで努力義務的に書いてあるところの方が多いと思います。

「全国校則一覧」というサイトがあるので、一度、確認してみてください。文章の最後は「努力する」とか「努める」みたいな感じで書いているところが多いと思います。