開発チームのリーダーとなって、潜在需要がどれだけあるか考えた。参考となったのが、折から増えていたミカンやリンゴなどの産直。東京・神田の青物市場へいって、宅急便ができる前後で取扱量がどれだけ変わったかを調べると、約10%減っていた。大半が宅急便へシフトした、とみる。クール宅急便ができれば、水産物でも同じくらいになるのか、加工品や鮮肉も加えれば、やはり約10%、年間に5000万個から6000万個はいけるのではないか、それなら採算に合う、という具合に、推論を重ねた。
難題は、配送中に冷蔵、氷温、冷凍の3つの温度帯が必要になる、という点だった。トラックに冷蔵や冷凍の設備を付けても、3つの温度帯を保つほどの電源はない。かといって、特別な専用電源を全車に積んだら、たいへんなコストになる。方法は、ドライアイスか蓄冷剤、氷くらいしか、考えられなかった。
ドライアイスは効率こそいいが、温度管理が難しく、炭酸ガスも発生するので好ましくない。蓄冷剤は、まだ目的に合う効能のある品が出ていなかったし、氷では冷凍までは無理。でも、あきらめない。需要は、必ず大きく潜んでいる。固定観念に縛られず、その需要を引き出し、生活様式の変化を想定して進む。
蓄冷剤に的を絞り、化学メーカーに原理を聞きにいくと、「氷と同じだ」という。氷は摂氏0度で凍り始め、0度で融け始め、その間はずっと0度の冷気を出すから、一定の冷温が保てる。同じ理論で、マイナス20度で凍り、マイナス20度で融ける物質をつくれば、「冷凍」での配送が可能になる、との話だ。
では、そんな物質が、簡単につくれるのか。困っていたら、取引先が愛知県の企業を紹介してくれた。冷蔵庫で霜取りをする際に、温度が上がって庫内の品が変質しないようにする蓄冷剤を手がけていた。試作してもらうと、零下25度前後で融け始め、最後は零下10度台になる。精度はいま一歩だが、狙っていた温度帯以下には維持できるので、採用した。需要を掘り下げる観点で単価を決め、年間2000万個を超えれば利益が出る、とはじく。