個人の組み合わせの問題なのに、一方だけが指導や叱責の対象に

「職場で傷つく」のは、誰が正しくて、誰が間違っている、という単純な話ではないのです。お互い異なる「持ち味」があるのが人間です。その凸凹がどうもうまくかみ合っていない状態が、組織としてどこか「うまくいっていない」状況と言うべきではないでしょうか。個人の問題というより、「組み合わせの問題」なのです。

しかし、声の大きなほうから見た、一面的な人間像がひとり歩きし、もう一方が指導や叱責の対象になることが多いのなんの。組み合わせ、つまり双方向的な課題であることなんて、どこ吹く風です。

この一連のすれ違いこそが、「職場の傷つき」の正体だと、私は数々の組織に入らせていただく中で確信しています。

しかしさらに問題なのは、「職場の傷つき」がしかと、そこかしこに存在しているのに、なかったことにされつづけてきている点です。

事態はこれだけに留まりません。気持ちの問題では片づけられないほど発展した、実際の事案があります。

少し前の話にはなりますが、あるメーカーで左遷された社員が会社を相手取って起こした裁判です。どういうことか見ていきましょう。

「受け身すぎる」と早期退職勧告された40代のエンジニア

「業務に対して受け身な点が多く、自らの提案、新しいことへのチャレンジといった姿勢があまりみられない」

人事評価にこうコメントを残され、また下位20%に当たる「C評価」を何度か食らったとある社員(大手メーカー勤務)。「希望退職」という名の人減らしリストに載り、会社側から暗に退職を迫られたそうですが、「希望」なんてしたことがないので拒否しました。

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すると、それまで鋭意従事してきたプリンター設計業務から外され、倉庫や工場に異動に。40代、働き盛りのエンジニアにこの異動が意味するものとは推して知るべきものがあります。

当然のことながら不安に駆られ、合理的な説明を会社に求めるも、回答は得られず。

そこで、同様の処遇に遭った5名が原告となり「人事権を乱用した異動は無効」として会社を提訴したというわけです(以後、原告の訴えを認める形で、会社側に異動命令を無効とする判決が下された)。

会社側の違法性は見逃せませんが、注目すべきは、裁判の審理の中で開示された会社側の人事面談資料にある、原告たちの人事評価です。