「給料を下げさせてほしい」と頭を下げた

その日以来、秋葉さんは従業員の前でため息をつくことをやめた。そして店頭に立つ時は社長ではなく、ひとりのスタッフであることを肝に銘じることにした。冒頭、従業員が秋葉さんに「タメ口」をきいていると書いたが、あながち的外れではなかったようだ。

しかし、社長が態度を変えただけで資金繰りが改善するわけではない。どうにもこうにも支払いが困難になってしまったとき、秋葉さんは社員全員に集まってもらうと、「給料を下げさせてほしい」と頭を下げた。

すると、想定外の答えが返ってきた。

「アキさんひとりにそんな辛い思いをさせてしまって、すみませんでした。みんなで乗り越えていきましょうよ。これからもよろしくお願いします」

なぜロピアの傘下に入ったのか

2023年3月、アキダイは大手スーパー・ロピアの傘下に入った。

中小のスーパーマーケットは、人手不足、人件費の高騰、電気代の高騰、後継者の不在などの理由で経営が難しいところが多く、大手によるM&Aが盛んに行われている。

秋葉さんは所有するアキダイの株をすべてロピアに譲渡したが、引き続きアキダイの経営に当たってほしいと髙木勇輔代表から伝えられたという。

老婆心ながら、そんなうまい話があるのだろうか。

「ロピアの髙木代表と(M&Aの)話をしたとき、たぶんのんでくれないだろうなという条件をすべて言ったんですよ。これまで支えてくれたお客さん、従業員、パートさん、テナントの肉屋さんとサヨナラするのは嫌だし、若い社員を引き抜かれるのも嫌、社員を転勤させるのも嫌ですと。そうしたら髙木さんは『アキダイはいままで通りアキダイのままでいいし、むしろロピアの若い社員をアキダイで勉強させてほしい』と言うんです。実際、すべて僕の言った通りにしてくれているから、ロピアの傘下に入ったからといって何も変わっていない。従業員の将来を考えても、最良の選択をしたと思っています」

ロピアの売り上げは、アキダイの約100倍。秋葉さんは、「八百屋は季節やお客さんの反応を直に感じられる仕事だから好きだ」という。その野性的で瑞々しい感性が、巨大な組織の中でこれからどのように生かされていくのだろうか。

撮影=小野さやか
アキダイ本店には、ロピアの生鮮部門の社員も研修にやってくる
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