「男のロマン」が招いた危機

秋葉さんがアキダイを開業したのは1992年のことである。倒産の危機は何度かあったというが、最大の危機を招き寄せたのは――誤解を恐れずに言えば――秋葉さんが抱えていた「男のロマン」だった。

「3店舗目を出して名刺を作った時、奥さんの両親にその名刺を見せたんですよ。そうしたら、『3つのお店の社長なんてすごいねー、立派だねー』って言ってくれて、それがものすごく嬉しかったんですよ。つまり僕は、お金儲けがしたかったわけじゃなくて、自分がいったいどこまで行けるのか挑戦したかった。そういう男のロマンを大切にしたいと思っていたわけです。だから、自転車操業でしたけれど、次の店舗、次の店舗って、店舗展開をしていったわけです」

店舗を拡大すればそれだけ利益も大きくなると秋葉さんは考えていたが、予想に反して、資金繰りはむしろ悪化していった。店舗が増えれば社員も増やさなくてはならない。給与の支払いばかりでなく、社員ひとりひとりの社会保険料の支払いが、想像以上に重かった。

「ご存じないと思うけど、社会保険料の支払いが遅れるとものすごく大変なんです。金利がすごいの。もちろん遅らせる方が悪いんだけど、支払いがきつくてきつくて……」

ある女性従業員の言葉の衝撃

いよいよ資金繰りが逼迫してくると、秋葉さんの表情は日々険しくなっていき、店の雰囲気も暗くなっていった。

「売り場に立っても、明日の支払いを考えたらテンション低くなっちゃうし、実際、なじみの業者だって、支払いが遅れた瞬間にドン! と机を叩いて『いったいいつ払ってくれるんですか!』ってなる。向こうもこっちも必死ですよ。そういう状況に追い込まれたら、従業員がニコニコ笑ってる姿が、ヘラヘラしているように見えてきちゃったんです。自分たちは給料をもらうだけで支払いなんて関係ないからヘラヘラしていられるんだろう、ヘラヘラしてるヒマがあったら一品でも売れよって、心の中でどんどん被害者意識が膨らんでいったんです」

そんなある日、ある女性従業員の言葉に秋葉さんはハッとさせられる。

「彼女は創業の時からうちでバイトをしてくれていたんだけど、『前は、すごく楽しそうなお店だな、こんなお店で働きたいなとお客さんに思われていたと思うけど、いまは、大変そうだなって思われてるんだろうな』と言ったんです。ああ、僕は店舗の拡大ばっかり考えて、創業のとき、自分がどんなお店を作りたいと思っていたかを忘れていたんだって気づかされたんです」