「あの土地は、絶対にうちが買う」

1回目の失敗は、現在、本店が建っている土地に絡む話である。

かつてのアキダイ本店は現在の本店から少し離れた位置にあり、現在、本店と関連施設が建っている土地は、当時、袋詰め作業をする倉庫、駐車場、段ボールなどのゴミの集積場所として借りていた土地だった。その土地が、ある時、競売にかけられることになった。

「その土地が使えなくなったらうちは商売ができなくなってしまうので、買うしかありませんでした。だって倉庫がなくなったら、スーパーは終わりでしょう。だから、おそらくこれ以上払う人はいないだろうという金額で入札したんです。ところが、ある競売専門の業者がその上を行く金額でバーンと落としてしまったんですよ。会社のみんなにどう説明したらいいのかわからなくて、その日はなかなか会社に戻れませんでした」

会社が終わってしまう。秋葉さんは茫然自失の状態だったが、なぜこんな事態を招いてしまったのかと考えていて、ひとつ、思い当たるフシがあった。

「あの土地は、絶対にうちが買う」

こう、あちらこちらで公言していたのだ。競売専門の業者はこの情報をつかんだ上で、秋葉さんよりも高い金額で落札したのだ。

案の定、落札してから1カ月も経たないうちに、秋葉さんの元へ業者がやってきた。

「この値段でこのおいしさ」とお客に喜ばれることを大切にしているという
撮影=小野さやか
「この値段でこのおいしさ」とお客に喜ばれることを大切にしているという

本当の願いを口にしてはいけない

「あの土地は地域に密着した商売をなさっているアキダイさんが使った方がいいと思うんですよね、なんて言うんだけど、彼らは落札した値段に1000万円上乗せした金額を言ってきたんです。アキダイにはどうしてもあの土地が必要だということを知っていたから、1000万ぐらい乗せても売れると踏んだのでしょう。たった1カ月で、1000万稼ごうというわけです」

結局、秋葉さんは銀行から大きな借金をしてその土地を購入することになったが、業者は秋葉さんと銀行の信用関係も事前に調査して、銀行が秋葉さんに融資をするだろうという確証を得た上で、話を持ちかけていたことも後でわかった。

「あれは自分の中で、ものすごい失敗でしたね。本当の願いとか本当に欲しいものは、軽々しく口に出さないで、自分の心の中で育んでおくべきなんだということを思い知りました。当時、僕の頭の中では、この土地を買ったらここに新しい店舗を建てて、ここを倉庫にして……という夢が膨らんでいたので、それをあちらこちらでしゃべってしまったんですよ」

なんとか土地を購入することができ、日曜朝市などの新機軸を打ち出すことで資金繰りもなんとかなった。しかしこの後、秋葉さんはもっと大切なものを失う危機を自ら招いてしまうことになる。