「タメ口」で話しかけられる社長
スーパーマーケット・アキダイの社長、秋葉弘道さん(55)は、年間300回近くもマスメディアに登場して生鮮食品の市況や旬の野菜の選び方などを解説する、「日本一有名な八百屋さん」である。
アキダイの本店は東京都練馬区関町にあるが、本店の店頭を訪ねてみると意外な光景を目にすることになった。秋葉さんがレジに入っている2人の女性に向かって、テレビでおなじみのしわがれた声で話しかけた。
「○○○はバーコードで打ってね」
すると、レジの女性が声を揃えた。
「アキさん、何言っているかよく聞こえないんだよ」
タメ口なのである。社長と従業員が対等に会話をしている。
もうひとつ意外なことがあった。
秋葉さんの魅力はなんと言っても圧倒的な商品知識に裏打ちされたコメントの説得力にあるわけだが、愛嬌のある語り口も人気を支えている要素のひとつだ。その秋葉さんが、子どもの頃は大の口下手だったというのである。
「小学校の4年生までは、授業中によく手を挙げて発言していたんです。担任の女の先生が優しい人で、僕が『えーっと、うーんと』なんてつっかえても、『秋葉君が言いたいのはこういうことだよね』って引き取ってくれた。ところが5年生のときに体育会系の男の先生が担任になって、『お前、何言ってるかわかんねぇからもう発言するな』って言われて、クラスのみんなに笑われて……。それがトラウマになっちゃって、人前で話すことができなくなってしまったんです」
高校に入ってトライしたふたつのこと
中学校時代、もちろん友だちとは会話をしたし、野球部に入ったので「声出し」は毎日のようにやっていた。でも、授業中に手を挙げて発言することができない。いや、できないというよりも逃げていた。
高校に入って、そんな自分をなんとか変えようと秋葉さんがトライしたことがふたつあった。ひとつは生徒会活動である。生徒会の副会長と会長を歴任した。
「生徒会の役員になったはいいんだけど、やっぱりみんなの前で話す時に『うっ、うっ』と詰まってしまって、そのうち頭が真っ白になって、同じことを何度も言っちゃったりね。校内放送なんて、『えーっと、なんだっけ?』って言ってるうちに終了のチャイムがピンポンパンポーンって鳴って、もう、学校じゅう笑いの渦ですよ」
自己変革のために始めたもうひとつのことが、八百屋のバイトだった。客に向かって威勢よく「いらっしゃい、いらっしゃい」と声をかける八百屋の店先に立てば、否が応でも客と会話をせざるを得ない。秋葉さんは、自分で自分を追い込んだのだ。