独立すると給料は半分になってしまうが…

「人生は一回きりだし自分もやってみたいと思ったんです。独立するなら、手もみの多加水麺を使ったラーメンを作りたいなとも思っていました。幼い頃から佐野ラーメンや喜多方ラーメンが好きだったので、そんなイメージのラーメンを作りたいなと考えていました」(一成さん)

「六厘舎」を辞めた後は、都内にある有名店で働かせてもらえることになった。約4年間、徹底的に基礎を学んだ。その間、週に一日は、東京・金町の「金町製麺」にアルバイトに行き、多加水の手もみ麺の製法を教わる。

修行をしながら、独立に向けてぼんやりとではあったがラーメンのイメージが固まってきた。

金町製麺で学んだ手もみ麺に「白河ラーメン」のような鶏のスープを合わせ、無化調(化学調味料不使用)で仕上げた一杯だ。試食を重ねつつ、こうして自分だけの一杯を完成させる。

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注文が入ると、一玉ずつ丁寧に麺をもみ込む。この作業が極上の麺づくりに欠かせないという

こうして、「自家製手もみ麺 鈴ノ木」は2018年10月にオープンした。店名は苗字の「鈴木」を文字って「鈴ノ木」とした。

さらに、子どもでも安心して食べられるラーメンを作りたいという思いから、産科医が主人公の漫画『コウノドリ』(講談社)の著者・鈴ノ木ユウさんの苗字を拝借し、ダブルミーニングになっている。

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店内の本棚には『コウノドリ』のほか、夫婦が好きな漫画が並ぶ

開業で重視したのは「お客さんの層」

妻の千尋さんとは22歳の頃に出会い、六厘舎で修行している間に将来独立したいと相談をした。ソラマチ店の店長をしている時期から考えると給料は半分になってしまうが、千尋さんは賛成してくれた。

独立を考え始めてから、2人で節約しながら独立資金を貯めていった。時には食費を一日100円にまで切り詰め、徹底的に節約をした。同棲時代からは給料を千尋さんに全部渡してお小遣い制に切り替えた。

「安い食材で栄養のある料理を手作りで毎日作ってくれた妻には感謝の気持ちでいっぱいです。初期費用は掛かりましたが、スケルトンにして内装からすべて理想のお店作りができたのも、妻が開業資金を貯めてくれていたからです」(一成さん)

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厨房の隣にある製麺機。独立資金を貯めるため、食費を一日100円に切り詰めることもあったという

所沢に引っ越してから店舗を探し、内見をしてから夕方まで人の流れをじっくり見ていった。

一成さんは、通行量もしかりだが、特にお客さんの層を重視したいと思っていたのだという。

「ここの物件は2人でビビッときたものがあったんです。周りには穏やかな人が多く住んでいて、駅の乗降人数も多い狭山ケ丘に惹かれました。最終的には『この場所にしよう』という妻の言葉が決め手になりました」(一成さん)