OFRが行なわれると判定は98%覆る

主審はVARの助言に必ずしも従わなくてもよいということでしたが、どれくらいの頻度で判定が覆るのでしょうか。

Sky Sportsはイングランドのプレミアリーグを対象に、2023年8月の開幕から2024年1月までのOFRについて調査をしました(※1)。結果、55件のOFRのうち、54件で判定が変更されたことが示されています。実に98%の割合で判定が覆っています。

※1:Sky Sports.(2024). Do Premier League referees ever overrule the VAR? The data show it’s rare-but it does happen.

つまり、主審は自身の判定を貫いてよいという前提は形骸化しており、実質的にはVARの助言が採用されるシステムといわれても仕方がない結果になっています。

もちろん、ビデオ判定は誤審を減らすためのシステムなので、間違っていた判定が覆るのは好ましいことです。ただし、OFRは“10人中8人以上が間違いだと考える”ミスについて再考する機会であり、必要以上に判定が覆っているとも考えられます。サッカーファンであれば、冒頭の遠藤のオフサイドのように、VARの介入によって納得のいかない反則を取られたシーンが思い浮かぶことでしょう。

来年以降の試合数を減らされる…主審が判断を覆す理由

OFRでは、主審がもう一度同じシーンを判定するというプロセスがあり、このプロセスに認知バイアスが生まれる可能性が潜んでいます。

野球においては、同じ塁状況でも点差というフレームが異なることで盗塁の判断が異なる可能性があります。

このOFRでもフレームの違いによって、判断を変えてしまう可能性があるのではないでしょうか。

最初に判定した際も、OFRで再判定する際も、同じ事象を判断しています。OFRでは再生速度や映像の視点を調節できますが、大雑把には同じ現象を再判定しているといえます。

しかし、OFRをする際はVARから介入をされており「1度目の判定は誤審なのでは」という視点で映像を再確認します。疑いのフレーム(ネガティブフレーム)で同じ事象をみるために、判定が変わってしまう可能性が考えられます。

ネガティブフレームでは、損失回避的な行動がみられることが知られています。主審にとって損失とは、自らの判断によって金銭的・社会的な制裁を受けること(それによって来年以降の担当試合が減ること)だと思われます。VARの助言を聞き入れて判定を変更すれば、こういった制裁を受ける可能性が減ります。その結果、1度見たときに比べて判定(意思決定)を変更するわけです。

このように、OFRによる判定変更の過剰さは、フレーミング効果の視点から支持されます。