不衛生な目薬を使って4人死亡、失明したケースも

では、自作の目薬にはどんな問題があるのでしょうか? 一番は衛生面です。よく市販の目薬をカバンに入れている人がいますが、どのぐらいで廃棄しているでしょうか?

実は市販の目薬では2~3カ月、処方薬では1カ月たったら使用してはいけないとされています。それは点眼薬には雑菌が生えやすいからです。液体がそのまま保存されているという意味合いでは、ペットボトル飲料と似ています。

例えばペットボトルのお茶を口に付けて飲んで、そのお茶を1カ月後に飲んだら無事に済むでしょうか? 1カ月もすればカビやゴミが浮いているかもしれません。目薬だと薬液が少ないのでそれがわかりにくいのです。

市販薬や処方薬はかなり管理された状況で作られたものです。そこに防腐剤を添加しているからこそ、長期間使えるわけです。自作された目薬であればすぐに腐敗や感染原因となる事は想像に難くありません。

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感染がちょっと起こったぐらいでは、と思うかもしれません。

しかし、市販薬でも衛生管理が悪かったがために、2023年にはアメリカで販売されている「エズリケア」という目薬で大規模な感染症の事件が起きました。この目薬はいわば塩水の目薬で、特殊な成分は添加されていません。

日本にはほとんど入っていないのでニュースを目にしなかった人もいるかもしれませんが、その目薬に薬剤耐性緑膿菌というのが混入し、失明した人がいるのはもちろん4人の死者を出してしまう大事件となりました。

このように衛生状態が悪い事によって目に問題が生じるだけではなく、菌が全身へと回り命を落としてしまう事さえあるのです。

「浸透圧」の調整は製薬会社でも難しい

もう一つは浸透圧という問題があります。飲み水では「これはしょっぱい」という風にわかります。けれども目薬では、塩分など添加したものの濃度が濃くても気づきません。

しかし、薬液などには浸透圧という概念があります。理科の授業でやったかもしれませんが、浸透圧は低いものの方から高いものの方に水分が移動してしまうという現象が起きます。

濃く調整してしまった目薬を点眼すると眼球から水分を吸い取ってしまうわけです。目の中にティッシュを入れたら水分を全部とられて乾いて痛くなるような現象がおきるのです。

そのため、目薬は浸透圧というものの調整が必要になります。市販薬でも処方薬でも、効果のあるものを入れたいけれども、浸透圧のことを考えて入れすぎるのもよくない。ですので程よい濃度に調整するのが大変なのです。それなのに自宅で、自分で調整してしまっては浸透圧がいい値になるはずがありません。

pHという問題もあります。pHというのはよく子供の頃リトマス試験紙とかを使ってはかったものです。

酸性・アルカリ性などをしめすのにこのpHが使われます。pHも適正な値にしておかないと目には刺激となりダメージを与えてしまうのです。濃度だけではなくてpHも程よい範囲に調整しなければいけません。つまり目薬というのはそもそもがいろいろな成分などを入れにくい製剤なのです。