ソーシャルメディアの使い方が「自分らしさ」の表現に

次に、ブランド論の3要素について見ていきます。まず倉下さんですが、以下のような言及からは、「自分らしさ」を重視する従来のブランド論が引き継がれていることを伺わせます。

「セルフブランディングの技術というのは、別の視点からみれば『個人が自分らしさを発揮するための技術』とも言えます。そして、その『自分らしさ』に価値を生み出すための技術でもあります。その技術の先には、『自分らしい』生き方が待っているでしょう」(5p)

3要素の1つめである「ブランド確立」に関しても同様です。以下のように、「過去・現在・未来」(65p)の各観点から自分自身を掘り下げることが促されており、この意味でも以前からのブランド論の系脈が引き継がれていると言えそうです。

「あなたのこれまでの人生で感動したことを100個書き上げてみてください」(77p)
「あなたの得意なこと、持っている技術・知識、得てきた経験、をすべて書き出してみてください」(79-80p)
「あなたは何によって人に知られたいでしょうか」(82p)

しかし、過去を掘り下げる理由は「自分の感動ポイントを探る」(72p)ためとされていました。これは、「ソーシャルメディアで情報が広く伝わるカギは、『共感』を生み出せているかどうか」、あるいは「面白い」「興味深い」「楽しい」「便利」と感じてもらえるかどうかにあるため、「自分自身の心が動いた情報を発信する必要」(72-73p)がある、だからそれを探ってみようと導かれているのです。つまり、「自分らしさ」はこれまでと同様に重視されているものの、ソーシャルメディアでの発信が念頭に置かれているという点で、単に「自分らしさ」が重要という話ではなくなっているのです。

また、「『自分のブランド作り』というのが、ツイッターやフェイスブックなどのツールを活用していく上で必要な考え方」(4p)だとする言及からは、ツール活用が主であり、ブランディングは従であるという位置づけの変化を見てとれるようにも思います。他にも、「ツールの活用が『普通』の人生では得られない体験をもたらす」、ツイッターやフェイスブックを「既存の考え方で使っているだけでは変化を起こすことは難しいでしょう」といった言及があり、セルフブランディング論はソーシャルメディア活用術の様相をますます呈するようになっています(4p)。

2つめの要素である「ニーズ照合」 について大きな違いはないのですが、3つめの要素である「スタイル設定」では変化を見てとることができます。倉下さんにおいてこれは、「どういうツールをどのように使うかの選択一つ一つがブランディングになっていきます」(93p)と述べられます。

より具体的には、 ブログ、ツイッター、フェイスブックについての基本情報と効果的利用法、各種サービスにおける名前の統一、コンテンツ展開の戦略、「自分なりの空気を醸成する」(133p)ことなどが紹介されています。倉下さんの著作においては、「スタイル設定」とは、どのようにソーシャルメディアを使うか(使い分けるか)、ソーシャルメディアのトレンドにいかについていくかという話に切り縮められているといえます。つまり、どのような、またどのようにソーシャルメディアを使いこなすかが、その人となりを表すものになるのだ、というわけです。