「身代金報道」で交渉ができなくなった可能性がある

こうしたサイバー攻撃グループは、自分たちの攻撃が、メディアでどう扱われているのかを自動翻訳などを駆使してチェックすることが多い。NewsPicksの記事が出る前にブラックスーツが犯行声明を出していないことを考えると、身代金を一度支払ったKADOKAWAを批判する記事がNewsPicksで掲載された後で、KADOKAWA側がさらなる批判を恐れて追加の支払いを最終的に拒否した可能性が考えられる。

内密に身代金を支払ってしまっていることが記事で暴露されているので、それ以上、積極的に交渉できなかった可能性がある。少なくとも、記事は交渉に影響を与えたはずだ。

そのため、ブラックスーツ側は次の一手としてブログに犯行声明を出し、7月1日までに支払わないと、データを暴露すると宣言したと考えられる。NewsPicks側は、KADOKAWAがこの顚末てんまつによって被った損失にどう対応するのだろうか。

そもそも、企業の命運をかけた交渉をしている企業の内部事情を暴露したNewsPicksは、高いメディア倫理を持っているかどうかには疑問符がつく。

例えば、読売新聞の2023年3月1日付の記事では「国内外100以上の報道機関などの記事の見出しや写真などを集めたサイト」であるNewsPicksが、2013年のサービス開始から「報道機関などの写真やグラフ、イラストなどのコンテンツを利用許諾を得ずに掲載」し、「元の写真や画像を同社のシステムで自動的にトリミングし、著作者の意に反した変更を認めない『同一性保持権』を侵害したケースもあった」と指摘されている。

ランサム攻撃の報道は慎重性が求められる

NewsPicksは、今回のサイバー攻撃の記事について内部でどれほどの検討が行ったのだろうか。人質事件で身代金が要求されるような場合は、捜査機関とメディアとの間に結ばれる報道協定で記事掲載に規制がかかるが、ランサムウェア攻撃でも状況は大きくは違わないことを考慮したのだろうか。記事が出ることで、現在復旧に向けてぎりぎりせめぎ合いをしている民間企業であるKADOKAWAの状況に与える影響をどのくらい想定していたのだろうか。

ランサムウェア攻撃は日本でも頻繁に発生している。東京に拠点を置くサイバーセキュリティ企業「トレンドマイクロ」の調査によると、過去3年間にサイバー攻撃を経験した組織は56.8%に上り、被害コストが最も大きかったサイバー攻撃はランサムウェアで、法人組織の累計被害額は平均1億7689万円になる。

これからもランサムウェアによる被害はすぐに減ることはないだろう。ただ組織が対応にあたる最中に、その内情を暴露するのは組織の足を引っ張ることになりかねない。ランサム被害の情報を掴み、大衆に広く伝えるメディアのあり方も改めて考える必要がありそうだ。

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