3つの壁はこうして乗り越える
ここまで日本でのモビリティーの発展を阻む3つの「壁」について見てきたが、こうした障害を乗り越え、日本としてどのような勝ち筋を描くことができるのかを、順に見ていこう(図表1)。
◆勝ち筋①:地域単位×生活者目線によるモビリティーのデザイン
まず「モノ偏重」の壁を乗り越えるためには生活者の体験に目を向けることが重要だ。各地域の状況に応じて、地域の人々の生活像に基づく最適なモビリティーを設計していくことが、日本にとっての勝ち筋となる。
これは、人にとっての「コト」「体験」の価値を基準に、人口分布や交通・都市などの状況に応じて、生活の質を高められるモビリティーをデザインするという発想だ。
中でも、日本の地域が抱える「交通弱者・移動困難者」といった多様な社会課題や地域事情も加味して、生活者目線で最適なモビリティーを確立することが重要だ。
そのためには、モビリティーが生活者にもたらす生活の質(QOL)を測定しつつそれを高められるサービスを異業種のサービスと掛け合わせながら創出するというサイクルを、地域単位で進めていく必要がある(図表2)。
モビリティーは生活の質を左右する
実際に、モビリティーのデザインによって高齢者などの生活の質が左右されることが徐々に分かってきている。
先行研究では、高齢者モビリティーと生活の質は深く関連しており、モビリティーにより①医療施設や食料品店、公共交通機関などの生活必須機能へのアクセスが提供された場合と、②社会活動およびコミュニティーへのアクセスが提供された場合に、生活の質が著しく向上するとの検証結果が報告されている。
このように、モビリティーとは単なる移動機能の提供ではなく生活の質を左右する代物として捉えるべきだ。
例えば、モビリティーデバイス(=乗り物)の面では、シェアリングの電動キックボード開発を行うLuup(ループ)が、高齢者向けのパーソナルモビリティーとして「低速電動ウィールチェア」を開発したことが話題となった。
これは、椅子のように座って乗れる3輪・低速のモビリティーデバイスであり、倒れる心配が少なく、誰でもすぐに乗ることができる。足腰の弱い高齢者や長距離移動が困難な人の移動支援としてデザインされた事例だ。
さらに、地域の状況を踏まえたモビリティーサービスをデザインする試みも進んできている。