幸福度を下げる最大の原因は「お金」

では、三つの原因のうち、どの要因の影響力が強いのでしょうか。

この点に関して、アメリカのダートマス大学のデービッド・ブランチフラワー教授とフランスのパリ経済学校のアンドリュー・クラーク教授は、ヨーロッパの延べ120万人以上を調査したデータを用い、子どもを持つ女性ほど幸福度が低くなる原因を分析しました(*2)

彼らの研究で注目しているのは、ズバリ「お金」です。

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彼らの分析では、お金の影響を統計的手法によってコントロールした場合、子どもを持つことの影響がどのように変化するのか、という点に注目しました。もし子どもの影響がマイナスからプラスに変化した場合、幸福度低下の原因は、お金であると考えられます。

反対に、子どもの影響がマイナスのままであった場合、幸福度低下の原因は、お金以外の要因だと考えられます。

実際の分析の結果、お金の影響を統計的手法によってコントロールすると、子どもの影響がマイナスからプラスへと変化することが明らかになりました。

つまり、子どもを持つことによって女性の幸福度が低下するのは、金銭的負担が主な原因であり、子ども自体は女性の幸福度を高めている、というわけです。

日本において、子どもを持つことにともなうお金の問題は頭の痛くなるものですが、ヨーロッパでも事情は同じようです。

ヨーロッパでは、子どもを持つ女性ほど幸福度が低くなる原因について研究が進んでいますが、日本ではまだ研究がありません。このため、何が女性の幸福度を引き下げる決定打になっているのかは、明確にはわかっていない状況です。

ただ、これまでの日本国内の研究を整理すると、お金だけでなく、夫婦関係も女性の幸福度の低下に大きな影響を及ぼす可能性が高いと予想されます。

夫婦関係が急速に悪化するきっかけ

シカゴ大学の山口一男教授と日本女子大学の永井暁子教授の研究によれば、子どもを持つことによって夫婦関係満足度が低下することがわかっています(*3)。とくに山口一男教授は論文の中で、第1子出産時に夫婦関係満足度が低下すると指摘しています。

実際に第1子出産前後の夫婦関係に満足している割合の推移を見ると、出産直後から大きく値が低下しています(図表4)。

残酷すぎる幸せとお金の経済学』(プレジデント社)より

図表4の結果は、「第1子出産直後に夫婦関係が急速に悪化する」ことを意味します。

このような夫婦関係の悪化は、いわゆる「産後クライシス」と呼ばれる現象と近く、女性の幸福度を押し下げる大きな要因になっていると考えられます。さらに、山口一男教授は別の論文の中で、第1子出産時の否定的な育児経験が第2子出産への障害になると指摘しています(*4)。第1子出産後に夫の育児の支援が得られず、夫婦関係が悪化した場合ほど、第2子の出産が抑制される傾向にあるわけです。