怒りがこみ上げたときは「口を閉じる」のが得策

5.怒るのは明日に持ち越せ

チェコには「明日に持ち越すべき唯一のものは怒りである」ということわざがある。セネカも怒りに対する最善の対策は、怒りを持ち越すことだとして次のように語った。

キム・ヘナム著、渡辺麻土香訳『「大人」を開放する30歳からの心理学』(CCCメディアハウス)

「しばしば哀れみが怒りを引き戻す。そこにあるのは、しっかりした堅固さを欠いた虚ろな膨張でしかなく、最初の激しい勢いに乗っているだけである。ちょうど、大地から立ち上がり、川や湖から発生した風は、吹き荒れても持続しないのと何も変わらない。激しい突進とともに始まりはするが、その後、本来の時が来る前に疲れてんでしまう」

だから本当に脳天まで怒りがこみ上げた時は、いっそ口を閉じたほうが得策だ。お互いの怒りが静まったあとで、何がいけなかったのかゆっくり考えてみればいい。そしてできるかぎり怒るのは先延ばししよう。怒るのを明日に持ち越せば、その瞬間に気づくはずだ。あなたの怒りは、もうすでに収まりつつあるということに……。

腹が立つのは、相手がある程度大切な存在だから

6.人生において人より大切なものはない

腹が立っている時は、相手の言動に強い悪意を見いだしやすい。だが本当に悪意のある言動というのは、思うほど多くないものだ。相手はただ少し身勝手だったり、考えが浅かったりしただけである。それに相手が赤の他人なら、あなたはそもそも腹を立てることなどなかっただろう。腹が立つということは、その相手があなたにとってある程度大切な存在だということだ。

したがってどんなに腹が立っても、関係を壊すような言動は控えたほうがいい。例えば相手の致命的な弱点や恥部には決して触れないこと。親や家族に言及して相手のプライドを傷つけるのもご法度だ。相手の言動になぜ自分が腹を立てたのか、その理由を伝えて相手を納得させるだけで十分である。すなわちどんなに腹が立っても、人生において人より大切なものはないことを肝に銘じておくべきだ。最後にセネカの言葉を伝えよう。

「すべてを目にし、すべてを耳にするのは当を得たことではない。(中略)だから、あるものは延期し、あるものは笑い飛ばし、あるものは大目に見てやるべきである」

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