古株メンバーが多い店舗に若手店長が赴任したパターン
特筆すべきは、新人スタッフの離職が多いこの店舗は、立ち上げ当初からいた古株メンバーがほとんどで、そこに若手店長が赴任してきた、というメンバー構成であることです。
一般的に、店長は自身の右腕となるような人員を採用し、作業フローなどを適宜改善しながら、マネジメントしやすい環境を作っていくことでチームビルディングをしていきます。しかし、古株スタッフの多いこの現場では、多少負荷が大きかったとしても「自分たちもこれでやってきたし、こういうものでしょ」という意識が生まれていたのです。負荷は昔から大きかったけれども、それを耐え抜くことができたスタッフたちだけが残り、「この負荷はあって当たり前」といういわば生存者バイアスが存在していた。
そこに耐性の備わっていない新人スタッフが来れば、なかなか定着しないのも頷けます。勤務中の歩数と離職率が必ずしも比例するわけではありません。
しかし、「歩数などに代表される身体的負荷がある一定のレベルを超えると、離職率が急上昇する」という閾値が存在するということが我々の調査から明らかになっています。
歩数以外にも、勤務中にしゃがむ動作や後ろを振り返る行為、予期せぬ進路変更を伴う動きが多いと、身体的な負荷が大きくなります。我々がこうした身体的負荷を可視化し、軽減するよう働きかけをしたことで、この企業の離職率の低減に貢献することができました。
離職が多い現場は「身体的・精神的負荷」を確認したほうがいい
会社側は、離職の原因が身体的な負荷であったことに、我々に調査を依頼するまで気づくことはありませんでした。これには、現場からの叩き上げで勝ち上がった人たちが経営層や中間管理職にいたことが影響しているかもしれません。重労働を乗り越えて出世してきた体力のある役職者たちは、部下たちが身体的な負荷を苦痛に感じていることに、なかなか考えが及びません。
そもそも、離職につながるような身体的負荷の高い職場では、どんなにマネージャーのスキルを磨いても、耐えられる新人は数少ないものです。市場が上り調子の時代を勝ち上がってきた人たちは、本来新人に備わっていない忙しさやプレッシャーに耐える力を後天的に備えたのだという認識を念頭におき、今の労働環境やオペレーションがこの耐性を前提にしたものになっていないかを今一度問い直すことが重要です。
あらゆる負荷に耐える力というのは、個人の性格や資質よりも、環境が培うものです。
新人社員の定着が悪い、離職が多いという課題を抱える現場では、こうした身体的・精神的負荷がないかどうか、今一度業務フローの見直しを図るとよいでしょう。