韓国政府も動き出した。まず外交省が4月末、「韓国企業に対する差別的な措置があってはならない」とクギを刺した。5月に入ると、科学技術情報通信省が、日本政府が韓国企業に株式売却の圧力をかけたとして遺憾の意を表明、「韓国企業が海外での事業や投資で不利益をこうむれば、断固として強く対応する」と強調した。さらに大統領府は13日、「韓国国民と企業の利益を最優先し、ネイバーの立場を最大限尊重する」と公式見解を明らかにした。

野党の「共に民主党」の李在明代表は「韓国のサイバー領土・LINEの侵奪だ」と主張し、尹錫悦政権に強い対抗措置をとるよう煽った。

メディアも一斉に「日本がネイバーを追い出そうとしている」と批判的な報道を展開。聯合ニュースは「LINEの経営権がソフトバンクに渡れば、日本、台湾、タイ、インドネシアなど利用者が2億人に達するアジア市場を失う恐れがある」と報じた。

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こうした論調に、国内では「韓国企業が育てたLINEが日本に強奪される」という受け止めが広がった。

また、松本総務相が植民地時代の初代韓国統監を務めた伊藤博文の子孫であることから、過去の植民地支配と重ねて日本への反感をあおる動きもあるという。

国内ではLINEの自立を求める声が高まる

韓国の官民挙げての反発に、松本総務相は「あくまでセキュリティーガバナンスの本質的な見直しを求めたのであって、経営権の視点から資本の見直しを求めたものではない」と弁明せざるを得なくなった。

ただ、日本国内でも、経済安全保障上の観点からLINEの資本的自立を求める声が高まりつつある。自民党内には「LINEを名実ともに日本のインフラとしなければならない」と、ネイバーの影響力を抑えるために出資比率の引き下げに断固たる措置を求める声も出始めた。

LINEは、日本発の数少ないSNSと思い込んでいる人も少なくないだろうが、実はネイバーの日本法人が2011年に開発したSNSで、その後のシステム開発や運用でもネイバーが主導的に関わってきた。

それだけに、ネイバーにとっては「わが子」のような存在で、思い入れも半端ではない。ただ、LINEの開発には、日本人技術者も当初から濃密に関わっており、LINEが「韓国産」か「日本産」かについては、議論が分かれるところだ。

もっとも、2億人といわれるユーザーの半分は日本国内で利用しており、最大の市場が日本であることは間違いない。行政の公式アカウントは首相官邸がいちはやく開設し、今や多くの地方自治体が活用している。政党も政治家にとっても必需品だ。

一方、韓国で利用されているSNSの主流はカカオトークで、LINEの影がきわめて薄いことも事実だ。したがって、実態としては、LINE=「日の丸SNS」といってもいいかもしれない。