健康飲料水の根拠にならない論文

以前、ある健康飲料水について、某メディアが「科学的に効果が検証されていないのに高額で販売している」と専門家による批判的な意見を掲載したところ、その水を製造・販売する企業から名誉棄損で訴えられたことがありました。

企業側は科学的な裏付けがあるとして論文を提示し、メディア側はその論文を検証してほしいと私に依頼。そのため論文を確認したのですが、一応はランダム化比較試験を行っているものの、事前登録された本命の評価項目では有意差がつかず、そのほかの多くの項目を測定し、改善した一部の項目だけを強調していました。

これは多くの項目を測定し、都合のよい結果が出た項目のみを発表する「粉飾」と呼ばれる手法であり、効果が証明されたとはいえません。むしろ本命の評価項目で有意差がないので、その健康飲料水に企業が想定したような健康効果がないことを示唆しています。

裁判の判決では「本件各論文の存在をもって、本件飲料水の効用が科学的に実証されているとみることはできない」「本件飲料水の効用は科学的に実証されていないものであることについては真実であると認めることができる」とされ、メディア側が勝訴しました。しかし、その健康飲料水は今でも普通に販売されています。

写真=iStock.com/flyingv43
※写真はイメージです

機能性表示食品もよいとは限らない

では、科学的根拠となる資料を提示することで機能性を表示できる「機能性表示食品」なら信頼できるのでしょうか。じつは、そんなことはありません。機能性表示食品は企業からの届け出制であり、国は安全性や機能性を評価していないのです。企業から届け出された資料については「報告の質、研究の質において不備が多い」「機能性のエビデンスにおいては注意を要する届出が多い」と指摘されています(※1)

ちなみに、冒頭の紅麹サプリメントも「機能性表示食品」です。紅麹サプリメントには、確かにLDLコレステロール(いわゆる悪玉コレステロール)を下げる「モナコリンK」という有効成分が含まれています。ただ、安全性はどうでしょうか。

モナコリンKは処方薬にも使われるスタチンの一種です。スタチンは、LDLコレステロールを下げ、心筋梗塞といった心疾患を減らす優れた薬ですが、一定の割合で肝障害などの副作用が起きます。紅麹サプリメントに臨床的に意味がある量のスタチンが含まれているなら、こうした副作用も起きるでしょう。副作用なしに有益な効果だけもたらすような都合のよい成分はありません。

※1 上岡洋晴「機能性表示食品制度の現状と課題 機能性のエビデンス