不在地主だから適正な価格がつけられない

そもそも固定資産税評価額はあくまで自治体が固定資産税の算出の根拠として定めている金額に過ぎない。不動産市場において査定額の根拠として使われることは少なく、不動産の価格はあくまで立地条件や需要、近隣の取引事例などから算出されるものだ。

そのくらいのことは所有者も、理屈の上では理解しているとは思う。取材でこれまで何度も分譲地の所有者にお会いしてきたが、今更になって、千葉県の僻地の分譲地を売却して大金を得ることを期待していた方はほとんどいなかった。少なくとも筆者の目には、地価の暴落という事実は受け止めているように見えた。

ところがいざ売りに出すとなると、本人は長年自分の土地に足を運んでいないため現在の価格相場の見当すらつけられず、結局は毎年自治体から送付されてくる固定資産税の納付書に記載された「評価額」を判断材料にせざるを得ないのだ。

筆者撮影
地価下落の事実は受け止めていても、具体的な相場観を持ち合わせていない所有者は少なくない。(千葉県富里市十倉)

所有者は、利便性の悪さや近年の取引事例から、かつての購入額よりも大幅に安い価格でしか手放すことができないことはわかっている。しかし、千葉県北東部における「限界分譲地」は、それ以前の問題として、需要と供給のバランスが著しく悪いために価格が暴落している、という事実を実感として理解している所有者は少ない。

手放したくても、ニーズがないから手放せない

分譲地には、多ければ数百にも及ぶ区画にそれぞれ異なる所有者が存在している。区画は大体どれも同程度の面積であり、同一の分譲地であれば利便性にも違いはない。せいぜい道路の向きや、角地などの違いがあるだけだ。1区画も30~50坪程度で決して広くなく、宅地以外の利用用途も限られている。

そしてその大半の区画は今なお空き地で、すでに所有者自身にも活用の意図はなく、価格さえ折り合えば手放したいと考えている。一方で、立地条件が悪く、かつ1区画が狭いために、今や宅地としての需要は皆無に近い。同じ地方都市でも幹線道路沿いの広い土地であれば、宅地以外にも商業用地や事業用地としての需要はまだ望めるが、狭い路地の奥にあるような分譲地ではそれも期待できない。

ほとんど買い手が存在しない市場に、他と差別化の図ることができない平凡な規格品(土地)が過剰に供給される。これでは相場が崩壊するのは当然なのだが、多くの所有者は筆者のように広範囲の分譲地を訪ね歩くようなことはしていないため、自分以外にも土地を手放したい所有者が無数に存在することまでは考えが及んでいない。

筆者撮影
同一の分譲地内でも、特に不利な条件にある土地が数少ない購入者の候補に入ることはまずない。(千葉県横芝光町木戸)

加えて、その同じ分譲地の中には売却への意欲すら放棄し、売りに出しているわけでもなければ管理しているわけでもなく、ただ荒れるに任せるだけの「放棄区画」も存在しているのだ。