逆効果だった2011年の「花王不買運動」
ネット起点の不買運動として思い出されるのが、2011年の花王に対する不買運動だ。この騒動は、フジテレビが「韓国推し」であることに対して、嫌韓・反韓の人たちが批判を行ったことが起点となっているが、フジテレビの大口スポンサーが花王であったことから、「反日メディアを支援する反日企業」としてやり玉に挙がり、不買運動へとつながったものだ。
なお、この年は東日本大震災が起こり、リアルタイムの情報共有ツールとして、Twitter(現X)の利用者が急増した年でもある。それに加えて、2ちゃんねるも健在であった。こうしたメディアを発火点として、レビューサイトが荒らされたのみならず、リアルのデモまで起こった。
ネット起点の不買運動としては、この花王不買運動が最大のものだったと言えるだろう。しかしながら、この運動は、有効なものであったとは言い難い。それどころか、ネット起点の不買運動が「(企業側が)真剣に向き合う必要はない」という通念を形成してしまった、逆効果をもたらした運動であったとも言える。
当時のフジテレビが「韓国推し」であったことは、政治的な意図があったわけではなく、単純に「韓国のコンテンツが安く調達できる」「視聴者のニーズに応える」という経済合理性に基づくものだった。もちろん、フジテレビにスポンサーしている花王にも政治的な意図はなかった。
花王側としては、たとえ不買運動によって売り上げが落ちたとしても、フジテレビのスポンサーを降りるという選択は「人種差別的だ」「不当な圧力に屈した」と批判される恐れがあるため、安易に取ることはできない。
SNS上の不買表明だけでは世の中は簡単には変わらない
なお、その後も多くの企業が「反日企業」として叩かれたり、ネットで不買運動が起きたりしているが、筆者が知る限り、実際に反日的な行動を取っている企業は見たことがない。むしろ、「愛国的企業」の方が、経済合理性よりも政治的信条を重視しているように見える。
そもそも、テレビ局の「韓国推し」が気に入らないのであれば、間接的な方法を取るよりも、直接テレビ局に申し入れを行うか、当該テレビ番組の「不視聴運動」でも起こした方が効果的だったのではないだろうか。
旧ジャニーズ問題に際しても、旧ジャニーズタレントを広告に起用している企業に対して、SNSで不買運動を呼びかける動きはあったが、それに対するファンによる「買い支え」運動も起きた。むしろ、後者の影響力のほうが強く、不買運動に効果があったようには見えない。やはり、ジャニーズファンがまとまって事務所に対して責任を求めるのが、有効な方法であったように思う(ただし、この動きも大きな潮流とはならなかったが)。
SNSは、誰でも手軽に情報発信できるツールではあるが、それで「世の中を変えることができる」と思うのは過信であるし、「良い方向に変えることができる」というのも、いまや妄想に近いのではないかと思う。