中国人固有の短期的発想

宋 文洲氏

【宋】上海になんであれだけの日本人がいるかといえば、漢字が通じるし、日本とあんまり変わらない生活ができる。飛行機は1日何便も飛び、東京に2時間で着き、ほとんど国内と一緒だ。この気楽さは、駐在員にとっては素晴らしいメリットになる。今回みたいな騒ぎは多くても5年に一度くらいで、周期的なものだ。それなら5年後のことを考えて準備ができれば、その時点でもうリスクではない。リスクとはマネジメントするもので、リスクを読み、対処する方法を考えておけばいい。

リスクを嫌うなら、リスクのない所を探して行けばいい。みんながリスクがないと思う所に一番のリスクがある。原発の問題も「リスクがない、リスクがない」と対処法を考えなかったので、かえってリスクが大きくなった。だからリスクが存在するのは確かだが、それをどうやってマネジメントしていくかだ。リスクと関係なく経済の合理性を考えるのが、ビジネスだと思う。

【富坂】その意味で知っておかなければならないのは、熊谷さんが話されたように5年後以降の中国は、いわゆる政治リスクとは違う、高齢化を含めた根本的なリスクがある可能性があることだ。これはちょっと深刻かもしれない。中国は、財政的な危機を感じているのではないか。

富坂 聰氏

中国の歳入の総計は120兆円にも上る額だが、2011年末くらいから外資企業からの社会保障費の徴収を検討し、ほかにもいろんな名目で外資からお金を取った。そういうことを中国がし始めたのは、大きな牽引力が公共事業しかなく、さらに来るべき高齢化に対する備えが、追いつかない点も大きな理由だ。これから中国でビジネスするときに、公から取られるお金、これは結構大きくなると思う。

中国人はもともと短期的な発想をする。細かく10万円ずつ20年間報酬を受けとるという考え方はしない。長期的な契約のほうがお互いにメリットがあると言っても「今すぐ」という感じだから、賃金の上昇を求める圧力もこれまで以上に高くなる。将来の不安に備えたいという気持ちが想像以上に強い。

その象徴が2011年秋に起きた、浙江省温州で起きた夜逃げ。今あるその富をとにかく抱えて海外に逃げるという事件だ。ひょっとすると中国の危機はかなり早い時点でやってくる可能性がある。そのリスクは、反日暴動の数日間のリスクとは違う本格的な危機で、中国を見直さなければならない時期に入っている。

※すべて雑誌掲載当時

宋 文洲(そう・ぶんしゅう)
ソフトブレーン顧問・マネージメント・アドバイザー。1985年に北海道大学大学院に国費留学。92年28歳のときにソフトブレーンを創業。2005年、東証1部上場。06年、ソフトブレーン会長退任。


熊谷亮丸(くまがい・みつまる)
大和総研チーフエコノミスト。1966年生まれ。日本興業銀行調査部などを経て2007年大和総研入社。「ワールドビジネスサテライト」レギュラーコメンテーター。近著に『消費税が日本を救う』。


富坂 聰(とみさか・さとし)
1964年生まれ。北京大学中文系に留学したのち、週刊誌記者などを経てフリー。94年、21世紀国際ノンフィクション大賞受賞。近著に『中国人民解放軍の内幕』『中国官僚覆面座談会』。

 

(吉田茂人=構成 小原孝博=撮影 PANA=写真)
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