「不当な価格競争の圧力が及んでいる」

イエレン米財務長官の中国訪問の主たる目的は、中国の過剰な生産能力が世界経済のリスク要因になる懸念を伝え対応を求めることだった。米国の財務長官自ら中国を訪問したケースは珍しい。

イエレン氏は、「主要な企業に対する支援は、政府の産業育成と強く関連していることを理解している」と発言した。中国製造2025などの産業振興策の強化もあり、中国企業の生産能力は、国内外の需要を上回る部分が増えているとの認識も示した。

その上でイエレン氏は、米国、メキシコなどに不当な価格競争の圧力が及んでいると強い懸念を表明した。中国政府は、過剰生産能力の問題に適切に対処し、市場原理に基づいた改革を推進する必要性も高いと指摘した。

国民を守るような政策発動の兆しは見えない

中国の過剰生産能力は累積し、世界経済全体を下押しし始めている。世界経済の成長鈍化は、中国経済にとっても逆風だ。その影響を軽減するため、中国は構造改革を進め需要創出につながる経済政策を強化する必要性は高い。

中国では、不動産バブルの崩壊により、中小の金融機関だけでなく大手行の一角にも信用不安が及び始めた。4月5日、大手国有銀行の一つである中国建設銀行は、世茂集団(シーマオ・グループ)に対する清算を香港の裁判所に申し立てた。

現在、中国の不動産市況の悪化に歯止めはかかっていない。それに伴い、雇用・所得環境は悪化し個人消費は弱含んでいる。デフレ圧力は高まった。そうした負の連鎖から脱却するため、金融緩和策の強化、社会福祉制度の拡充などで国民に安心感を与えることが重要なのだが、今までのところ、習政権にそうした政策発動の兆しは見えない。