リニアで恩恵を受けると思っている人も少ない

では、川勝氏の後を継ぐ静岡県知事は、一気にリニア推進に舵を切ることができるのか。静岡県民のリニアに対する根強い反対は、衰えていない。前述の通り、静岡県民にはマイナスはあっても何の恩恵もないからだ。次の知事候補がリニア推進を掲げて知事選を戦うとは考えられず、当選後もせいぜい玉虫色で進めるのだろう。

そもそも、リニアの開業がここまでズレ込んでいるのは、川勝知事の反対だけが原因ではない。恩恵を受けると考えて計画に賛成している人の数自体が多くないのだ。リニアは品川と名古屋を40分で結ぶ計画だが、新幹線は現在87分。乗車時間だけを見れば半分だが、大深度を走るリニアは地下駅への乗降にかなりの時間がかかると見られる。さらに西に行くとなると、乗り換えに時間がかかればメリットは薄くなる。品川―大阪間の完成は当初計画では2045年だ。

JR東海にとってもどれだけメリットがあるか分からない。当初は社内にも反対論があったが、名誉会長になっても絶対的な権力を握り続けた葛西氏の決断で建設が始まった。9兆円とされる総工費はJR東海の自己負担ということになっている。

JR東海にとっては東海道新幹線と「競合状態」に

問題は「ドル箱」の東海道新幹線と「競合状態」になることだ。客をリニアに誘導しようと思えば、現状の東海道新幹線を「使いにくく」することになりかねない。新幹線ができると平行在来線を廃止したり第三セクターなどに変えてきたのと同じことだ。ドル箱の利便性を落とすことになれば、JR東海自体の収益性を損いかねない。JR東海はすでにリニアの料金案を出しているが、新幹線に比べて700円の上乗せとしている。つまり、時間が半分だからといって大きく料金を上げられないと見ているのだ。

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北陸新幹線が敦賀まで開業したが、今後、敦賀―新大阪間が完成すれば、北陸回りで東京と関西を往復できるようになる。もちろん時間は東海道に比べて長くかかるが、料金次第では客を奪われることになりかねない。独占が崩れるのだ。おそらく葛西氏がリニアの着工を急いだのも、北陸新幹線が完成して東海道新幹線の独占が崩れる前に、圧倒的にスピードで勝るリニアを完成させて、独占を維持しようと考えたのだろう。

つまり、JR東海自身の収益を考えても、品川―名古屋間だけのリニア運行が長期にわたって続くことは、避けたいところなのだ。