「推しタレント」が若者の購買意欲を刺激する
筆者の所属するクチコミマーケティング協会が行った調査によると、20代の約6割が何らかの形の「推し」がいるとしている(図表2)。
また、「推し」が紹介する商品を購入する意向も他の年代(40代)と比べて強い傾向がある(図表3)。
今回のビール広告でも、SNSの投稿でもタレント名と商品名を併記したものが多数見られるし、購入報告の投稿でも、「○○ちゃんが出てる」「●●君が紹介してる」といったコメントも見られ、タレントが購買喚起に寄与していることがうかがえる。
企業側も、それを見越したプロモーションを展開している。
アサヒのドライクリスタルでは、インターネットや屋外広告で「#環奈と乾杯」というハッシュタグ付きのキャッチコピーが使用されており、実際にこのハッシュタグを使った投稿が多数なされている。
キリン「晴れ風」においても、目黒蓮が発売日の4月2日にInstagramでファンと一緒に乾杯をする生配信イベントを行っている。今田美桜も発売日翌日にInstagramに両手に商品を持った写真を投稿し、55万をこえる「いいね!」を集めている。
「スーパードライ」はマーケティングに成功した稀有な例
価格低下と、各社のプロモーション攻勢によって、ビール市場の再活性化は十分に期待できるだろう。また、若者のトライアル飲用を促進する効果も見込めるように思える。
しかし、ビールのような日常的に飲むアルコール飲料として定着してきた商品は、広告・プロモーションの力だけで売り続けることは難しい。ビールは「指名買い」される商品であるが、定番化して安定的に売れ続けるポジションを獲得するのは非常に難しい。
1987年発売のアサヒスーパードライは、それに成功した事例としていまだにマーケティング論の模範的として語られている。逆に言えば、稀有な事例であるからこそ、いまだに語り続けられていると言っていい。
スーパードライがロングセラーになることができたのは、雑味がなくスッキリした辛口のビールが、消費者の長期的なニーズに合っていながらも、競合商品が存在しなかったことが大きい。なおかつ、味はコンセプトが20代~30代のビールエントリー層の嗜好や食文化と合致しており、新しいトレンドとして彼らから受容され、その後も着実に浸透し、市場を拡大していった。
あらゆるタイプのビールが販売されている現在において、独自の味わいを持ちながら、消費者ニーズを満たすビールを新たに開発するのは困難だ。