どうするべきか頭を悩ませたジェウク氏は、「もっとも安全なのは、貯蓄して利子を受け取ることだろう」という結論に達した。銀行預金なら元本も保証されているからだというわけで、彼は2020年4月時点の韓国各銀行の利率と商品を調べてみた。少し長いが引用しておこう。
NH農協銀行の定期預金「大満足実質預金」は基本金利が年0.75%。
ウリィ銀行の「WON預金」は年0.65%。
ハナ銀行の「株取引定期預金」と「高段位プラス定期預金」はそれぞれ年0.75%と年0.70%だった。
政府の基準金利引き下げのため、利率はほぼ1%以下になっている。
1年満期定期の利率が0.80%と最も高いので、10億円を預金すると利子は800万円だ。
15.4%の利子課税123万を差し引くと、満期時の手取りは10億677万円。
年に677万円の収益があれば、十分に余裕のある暮らしができそうだ、とジェウク氏は考えた。
ところで韓国統計庁の消費者物価調査によれば、ここ5年間の消費者物価上昇率の平均は1.1%だ。幸い2019年度の物価上昇率は0.4%だったので、10億円の0.4%にあたる400万円が目減りしたとして、これを利子から差し引くと、277万円の利益が出たことになる。
これを12カ月で割ると、23万円程度にしかならない。10億円という大金を相続し、富豪として素敵な人生を送れると思っていたのに。ジェウク氏は仕事を辞めたことを後悔した。
(57~58ページより)
もちろんこれは例え話に過ぎないが、このケースからは3つの教訓を得ることができるとキム氏はいう。
1つ目。「10億円は大金だが、損失を出さずに一定の所得を得ようとすると意外に少額」だということ。逆にいえば、もし23万円の定期収入があれば、10億円を保有する資産家と大差ないわけだ。一般に定期収入は、実際の金額の100倍の規模の力を持っているといわれるという。それほど定期的な資産は価値が高く、高品質な資産であるということである。
2つ目は、「お金を守ることは、お金を稼ぐのと同じくらい難しい」ということ。そのため必ず、お金を守る方法を学ばなければならないのだ。たしかに機会と運に恵まれればお金は稼げるかもしれない。だが、それを守るためには学習と経験と知識が不可欠なのだ。
そして3つ目。「本当に10億円を手にしたとしても、月給23万円のサラリーマンの生活を値踏みしたと同時に財産は減っていく可能性がある」ということ。
10億円が手に入ったとなれば舞い上がっても不思議はないが、こうした事実を認識し、つつましく生きることが重要なのだ。だからこそ、自分が10億円を稼げる人間だと実感したときには、こうした知恵を早めに学んでおかなければならないのである。