射精がすべてではない
立ち上げて約3年半経った今。問い合わせは月に80件ほど。身体、知的、精神、発達とさまざまな障がいの方から寄せられる。
具体的な性サービスは、ひとりひとり違う。
「当たり前ですが、一人一人、育ってきた環境も価値観も違うので、望んでいることも困っていることも違う。この障がいの方はこういうことを望みがち、とは言えないのです。身体的に射精が難しい方もいて、射精がすべてではありません。そのため、お問い合わせをいただいたら、必ず1時間、対面かオンラインで一度、どのような障がいがあるのか、ご本人が何を望んでいるのかなど、しっかりとお話をうかがう時間を設けています」
性サービスを行うにあたり、何よりも大事にしているのは本人の意思だ。
「植物状態にある方、ご本人の意思が確認できない方は、ご家族からご要望があってもお断りしています。意思が確認できず、ご本人が必要としていない時に、私がサービスをしてしまうと、それは性虐待に当たるんです。本人が必要としているからサービスを受ける、ここを大前提にしないといけない。意志の疎通ができている、合意が取れている方にのみ、サービスを提供しています」
母としての葛藤
印象的なケースがあった。障がいでマスターベーションができない若い男性が、「女性の身体と触れ合いたい、快感を得たい」とサービスを希望したが、男性の母親には抵抗があった。小西さん自身も悩みながら手探りで、母親の気持ちにできる限り寄り添い、話をしたという。
「息子さんが性サービスを受けることが、なかなか受け入れられない気持ちがお母さまにはあって、それは当然だと思いました。息子さんを任せてもいいと思ってもらうにはどうしたらいいんだろうと、不安に思われている点などをお聞きして、何度かにわたり、お話をさせていただきました。お母さまだからこその気持ちが、すごくあったと思います」
性サービスを受けた後、息子は母親にこう言った。
「受けさせてくれて、ありがとう」
過去には、サービスを受けたあとに「やっと、男性として見てもらえた」と呟いた利用者もいたという。
「性を楽しむ」ことを誰でも当たり前に享受できる世界に
「利用者は、性的に未経験の人ばかりです。だから、『そういう触り方をしたら、女の子は怖いと思っちゃうよ』とか、『もっと優しくしてくれたらうれしいな』、『今度は爪を短く切ってきてくれたらうれしいな』なども、伝えるようにしています。これから女の子とデートを楽しむにしても、知らないことばかりだから」
小西さんは、初めて女性と肌を合わせる経験をした人たちの変化がうれしいと語る。
「お風呂に入るのが苦手な方からリピートの予約をいただいたのですが、お母さまから『明日はサービスがあるから、きれいにして行かなくちゃ』と、お風呂に自ら入るようになったと聞いて。人との関わりができたことで、ご本人が一歩前に進んでくださったのかなと。そういうお話を聞くと、すごくうれしいですね」
性を楽しむことは、相手とその時間を慈しむこと。
障がい者もそれが当たり前に享受できるささやかな扉を、小西さんは開いたのだ。
(後編につづく)