本間と同じく「入社3年目でやる気を失った」商社マンがいる。総合商社の法務部に勤める浜口紀夫(仮名、30歳)だ。
「入社直後の上司とウマが合わず、ちょっと腐ってしまいました。仕事が面白いと思ったことはありませんね。転職を考えたこともあるのですが、その頃にできちゃった結婚をした妻から『今の会社に入れたのがあなたの最高地点なのよ。転職なんて許さない』と言われてしまいました。3年目ですべてが面倒くさくなって、『流そう!』と心に決めたんです」
以来、流れるように働いてきた。要領はいいほうなので、全力を尽くさなくても担当業務はこなせる。女たらしの特技を活かし、業務職(一般職)の女性をおだてて、仕事をどんどん任せる。毎日、残業はほぼ皆無で退社している。
「家に真っ直ぐ帰る気にはなりませんね。ヨメが怖いから……。最近はマンガ喫茶にはまっています。『エリートヤンキー三郎』はおすすめですよ!」
マンガの話になると急に目を輝かせ始める浜口。中学生時代から「不良」にあこがれていたのだと興奮する。
「先日も人事部とケンカしてしまいましたよ。人事面談に10分ぐらい遅れただけで、『おまえ、なめているな。帰れ』なんて偉そうに言うものだから、頭にきて本当に帰ってきました。ハハハ!」
約束の10分前に着いたのに謝るクレディセゾンの志賀とは大違いの態度だ。出世はしなくてもいい、と開き直る。
高い志を掲げ、仕事に生きがいを見出している志賀と加藤。仕事よりも家庭生活やマンガ喫茶通いに重きを置いている本間と浜口。両者の人生が交差することはこの先もないだろう。
(文中敬称略)
※すべて雑誌掲載当時