「うんこをしたら楽になる」はIBSの可能性大
がんや他の腸の病気がないことを確認し、ようやくIBSの診断となります。中には下痢の原因は豆腐サラダの食べ過ぎだったという患者さんもいました。
内視鏡や血液検査、便検査などでお腹に痛みが出るような異常がなかった場合、次のような基準をもとにIBSの診断を行います。
・少なくとも診断の6カ月以上前に症状が出現した。
・腹痛が直近3カ月間の中の1週間につき、少なくとも1日以上起こる。
・さらに下記の2項目以上の特徴を示す。
①排便によって症状がやわらぐ
②症状とともに排便の回数が変わる(増えたり減ったりする)
③症状とともに便の形状(外観)が変わる(軟らかくなったり硬くなったりする)
特に「排便によって症状がやわらぐ」のは、IBSの特徴的な症状です。他の腸の病気がある場合、排便があっても腹痛がおさまったりはしません。
ですから「お腹がぎゅーっと痛くなってトイレに駆け込み、うんこをしたら楽になる」という場合は、IBSである可能性が高いといえるでしょう。
IBSを悪化させる食べ物はある?
IBSにはストレスによって腸が激しく動き過ぎて下痢をする下痢型、逆にうまく便が出なくて便秘してしまう便秘型、便秘と下痢を繰り返す混合型などがあります。
一般に、下痢症状は男性に、便秘症状は女性に出やすいといわれています。前章で紹介したブリストルスケールに照らしてみると、下痢症状のときはtype-6の泥状便やtype-7の水様便。便秘症状のときはtype-1のコロコロ便、type-2の硬い便が多くなるようです。
便秘型IBSは一般的な便秘と区別することが難しいのですが、便秘解消のために食べるヨーグルトなどの食材が、逆に症状を悪化させてしまったという患者さんに会ったこともあるので注意が必要です。
〈お酒〉
アルコールは消化管の運動を低下させたり、腸での炭水化物やタンパク、水分の吸収力を低下させたりすることで排便異常が起こるといわれています。特にIBSの方は一般の方に比べて飲酒後に消化器症状が悪化したという研究があります。
〈スパイス〉
激辛料理はお腹をゆるくするイメージがあるのではないでしょうか。唐辛子には消化管運動亢進作用があり、IBS患者においてはそれが過度に働きすぎ、症状を引き起こしてしまうといわれています。他にも、スパイス類は消化管運動を亢進し、IBS患者の腹痛を増強する可能性があるといわれています。
小腸内で分解・吸収されにくい糖類(短鎖炭水化物)のことを「FODMAP」といいます。
Fermentable(発酵性)、Oligosaccharides(オリゴ糖)、Disaccharides(二糖類)、Monosaccharides(単糖類)、Polyols(ポリオール)の頭文字をとったもので、小腸で吸収されなかったFODMAPは、そのまま大腸へたどりつき、腸内細菌によって発酵してガスを発生させます。
大腸でガスを発生させ、お腹を張りやすくする食べ物のことを「高FODMAP食」といいます。最近の研究では、高FODMAP食の大量摂取は、IBSの症状を悪化させる可能性があり、反対に低FODMAP食は、IBS症状の改善につながるともいわれています。
ただし前述のローマ分類(消化器疾患の国際分類)を発表した研究組織では、まだまだ研究の余地があるため、過剰に気にしないようにしましょうともいっています。以下にリストを記載しますが、この中に自分に合わないものがあるかもしれないくらいに思ってもらえればと思います。
完全に守ろうと思うと食べるものがなくなってしまい、それはそれで不自由です。これを避けたところで治るわけではないので、調子が悪くなったら困る、たとえば大事な受験の直前だけ一部制限するという程度に考えておきましょう。
代表的な高FODMAP食と低FODMAP食は次のようなものです。
タマネギ、ゴボウ、アスパラガス、カリフラワー、そら豆、全粒粉パン、ライ麦パン、パスタ、シリアル、牛乳、ヨーグルト、蜂蜜、加工肉、カシューナッツ、ピスタチオ、リンゴ、ドライフルーツ、プラムなど
〈低FODMAP食〉
にんじん、じゃがいも、かぼちゃ、きゅうり、ほうれん草、茄子、トマト、米、そば、オートミール、タピオカ、バター、モッツァレラチーズ、カマンベールチーズ、肉類、魚介類、卵、豆腐、マカダミアナッツ、アーモンド、メープルシロップ、キウイ、バナナ、オレンジなどこれをみるとわかるように、ヨーグルトと蜂蜜は高FODMAP食。便秘によかれと思ってヨーグルトをたくさん食べたり、いろいろな種類の蜂蜜を試したりしたら、便通がよくなるどころか、むしろお腹が張って便秘が悪化してしまった。そんな人は、便秘型IBSかもしれません。
ちなみに乳酸菌は慢性便秘症への効果はある程度証明されていますが、潰瘍性大腸炎にはよくありません。「腸活」ブームともいわれていますが、「腸の病気全てに効く」とか、「万病に効果がある」いう意味ではないのでくれぐれもご注意を!