「ミッドライフ・クライシス」負担が体にかかり症状として現れる
IBSは内臓に病気があるわけではなく、主に精神的なストレスによって起こります。トイレのない電車での旅行や、映画や観劇など長時間トイレに行きづらい場所にいられなくなるため、QOL(生活の質)を低下させてしまいます。
その結果、さらに精神的なストレスが大きくなり、症状が悪化するという負のスパイラルに陥ってしまいます。IBSはよい治療薬も出てきているので、医師に相談し、治療を受けることが大切です。
ミッドライフ・クライシスという言葉もあるように、40〜50代というのは仕事上では中間管理職、家庭でも子どものことや夫婦関係、親との関わりなど、ライフワークバランスが取りにくい世代です。
自分のことを優先しにくく、いろいろなストレスを抱え込みがち。その負担が体にかかり、IBSの症状として現れることがあるのです。
実際は、どの年代の人でもIBSにかかる可能性があり、6人に1人は隠れIBSといわれています。10代の思春期特有の悩みからIBSになる患者さんもいます。
50代からその数が急に増えるということではありません。ただ、50代での「便漏れ」は、精神的にも社会的にもダメージが大きいため、不安を感じて受診する方が多いのかなと思っています。
50代というのは、社会的にそれなりの地位にあり、人から頼られる立場の人も多いでしょう。そんな自分がうんこを漏らしてしまったら……。
若さでは誤魔化しきれず、老化と諦めるにはまだ早い。ですから深刻に、本気で止めたい、という意識で受診する患者さんが多いです。
ストレスを長期的に感じると、その悪影響は蓄積される
IBSの病態、病気になる原因は今のところ完全にはわかっていません。感染症をきっかけに罹患する人などもいてきっかけはさまざまですが、多くの患者さんに共通していることは、ストレスとの相関です。
人の脳は、ストレスを感じるとホルモンがコルチゾールというストレスホルモンを放出させたり、腸でセロトニンの分泌を促したりします。
セロトニンは、「幸せホルモン」とも言い、聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。脳の興奮を抑え、心身をリラックスさせる効果があるセロトニンは、腸の動きを活発にする働きもします。
ただ、ストレスによってコルチゾールが放出され続けると、セロトニンの分泌も過剰になり、腸がセロトニンに反応しやすくなってしまいます。腸の運動が活発になり過ぎることで、下痢や便秘といった排便異常や腹痛が引き起こされます。
これがIBSの病態だといわれています。たとえばサバンナにいる草食動物を想像してみてください。草かげからぬっとライオンのような影が見えたら、体がビクッと一瞬にして緊張状態となり、走り去ると思います。これが一気にコルチゾールを放出した状態です。
厄介なことに、ストレスを長期的に感じた結果、その悪影響は蓄積され、消耗してしまうといわれており、この現象を「アロスタティック負荷」と呼びます。
周囲に自分を襲ってくる肉食動物がいないかずっと気を張っている状態が続くと、セロトニンを放出する蓋のようなものがゆるゆるになってしまい、ちょっとしたことで出続けるようになってしまいます。
風が吹いて草が少し動いただけで逃げ出してしまうような、過敏な草食動物を思い描いてみてください。腸がこうなってしまうと、風が吹いて桶屋が儲かるのではなく、お腹が痛くなる状態になってしまいます。
現代社会もサバンナのようなものだとすると、ライオンのような恐ろしい上司に呼ばれただけでお腹が痛くなるというのも理解できますね。
前述の通り、IBSは内臓に病気があるわけではないため、診断するためには、「除外診断」が必要となります。大腸がんや炎症性の腸疾患など他の病気がないことを、まずは証明するのです。特に50代の患者さんで、過去に大腸の病気にかかったことがあったり、家族にそうした病歴があったりする場合は、大腸内視鏡検査や大腸造影検査などを行った方がいいでしょう。