「なんて強い子なの」

その後、笑は羊水検査を受けた。そして結果を聞きに行くことになった。その日、航は札幌に仕事で出張だったため、笑は一人で結果を聞きに行った。

診察室に先日の医師がいた。やはり硬い表情だった。医師は数十枚の厚さの書類を取り出した。そのうちの1枚を渡される。そこには染色体の絵が描かれていて、18番目の染色体が3本になっていた。

「診断は18トリソミーです。これで確定です」
「……」

笑は何も言えなかった。しかし、別にショックはなかった。そんなことは前回の超音波検査ですでに分かっている。今さら確定と言われても動じなかった。

(それがどうした)

笑は冷静だった。18トリソミーであろうがなかろうが、私たち夫婦の可愛い赤ちゃんには変わりがない。20週になってもお腹の中で生きているなんてすごいじゃないか。なんて強い子なの。笑は、親として子どもにできる限りのことをしてあげたいと心の中で声を上げた。

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医師はそれ以上、何も説明しなかった。そして質問を浴びせてきた。

「どうしますか? 妊娠は継続しますか?」
「継続します」

笑がそう言うと、医師は電子カルテのPCに向かって文字をカタカタと打ち込んだ。「妊娠継続を希望」と書いているのが見えた。

転院したいと言ったとたん、医師の態度が…

笑は、わざわざ何でこんなことを書くのだろうかと疑問を感じた。そうか、大抵の人は中絶を選ぶのだと腑に落ちた。そうした医師の態度を笑は冷めた目で見ていた。

だが、今日は結果を聞いて終わりではない。大事な用件がある。

「あのう……こちらで羊水検査を受けてお世話になったのですが、私たち夫婦は仕事をしていてとても忙しいのです。ここまで通うのは遠くて大変なんです。自宅と職場の近くにある日赤医療センターに転院して出産したいんです」

笑は、積極的な治療を望んでいるからという理由は持ち出さなかった。それを言い出すと、同じ周産期母子医療センターとして東京都から認定されているX病院と日赤医療センターとの間で、転院するのが難しいかもしれないと思ったのだ。

転院という言葉を出すと、医師は「え、うちで生まないの?」と軽く身を乗り出してきた。

医師は気が楽になったのかと笑は思った。

「日赤医療センターだね。電話をかけてあげるよ」

医師はそう言って笑の目の前で受話器を握った。交換手に日赤の産科の名を告げてちょっと待ち、電話が繋がると医師は切り出した。