予後が悪いのは、治そうとしないからではないのか

18トリソミーは、重い多発奇形を伴うから予後が悪い。だから治療しない。それって論理が矛盾していないだろうか。医学が進んだ今日、心臓の病気でも横隔膜ヘルニアでも治せる子は治せる。

治そうとしないから、予後が悪いのであって、できる限りの治療を受ければ予後が悪いということはないのではないか? 18トリソミーという染色体異常だけで、子どもが亡くなることはないのではないかと笑には思えた。

18トリソミーで横隔膜ヘルニア。こうした赤ちゃんを治療してくれる病院はないだろうか。笑は必死で検索した。18トリソミーの子を育てた親のブログがけっこう見つかる。体験談は心強い。淡白な医師の説明よりも、はるかに心に響く。必死になって我が子を育てている同じような境遇の親がいることが、それだけで心の支えになった。

次から次にブログを読みまくっているうちに、ある母親のブログに行き当たった。さくらちゃんのママが書いたものだ。さくらちゃんは、18トリソミーで横隔膜ヘルニアだった。「手術を受けた」と書いてある。

数年前に東京で生まれて、妊娠中に横隔膜ヘルニアの診断を受け、生まれてから手術を受けたという。ただ、手術は成功したものの、その後、家に帰って家族と共に楽しく暮らしていたが、数年後に風邪をこじらせ呼吸器疾患で亡くなったとつづられていた。

でも、18トリソミーでも横隔膜ヘルニアの手術をしてくれる病院が実在する。そのブログに笑は吸い寄せられた。

「渋谷」「病院行き」「バス」といえば…

ところが、そのブログには病院名が書かれていなかった。笑は過去に遡ってどんどんブログを読み進めた。深夜になっていた。病院の名前は伏せられていた。「○○病院」としか書かれていない。病院の中にはタリーズコーヒーがあるとの記述があった。しかしそれでは探しようがない。一体どこだろう?

そのとき、笑の目はある一文に釘付けになった。さくらちゃんのママが買い物をしたあと、さくらちゃんのいる病院に戻る際、「渋谷駅から病院行きのバスに乗った」という文章があった。笑は、仕事で渋谷を通ることが多い。だから渋谷駅のことには詳しかった。

渋谷からバスに乗って行くことのできる病院はいくらでもあるが、「病院行き」という行き先表示がバスに掲示されているのは、日赤医療センターしかない。このバスは「日赤医療センター行き」のことだ。ついに見つけた!

時刻は午前2時過ぎだった。隣で航が寝ている寝室で、布団の中の笑は興奮してガッツポーズをした。ここに行けばいいのだ。

絶対にここに転院しよう。そしてお腹の赤ちゃんをこの病院で生みたい!