病院から歓迎されているようだった

翌週、笑と航は自家用車で日赤医療センターに向かった。朝9時の予約だったので、その15分前に到着するようにした。病院は、採光を十分に配慮した建物で、ガラス窓が壁一面に広がっていた。

13階建の威容を誇り、病床数は700を超えるという超近代的な巨大病院だった。正面入口から入ると、広い待合ホールの一角にタリーズコーヒーがあった。それを見て、笑たちは「ここに間違いない!」と確信した。

受付に行ってみると、すでに診察券が発行済みになっていた。病院から歓迎されているようで笑はうれしかった。

体重測定・尿検査・血液検査を受けてから、笑は産科の診察室の前で待った。少しして名前を呼ばれる。部屋に入るとカラッと明るい雰囲気の女性医師が待っていた。

紹介状を読み終えていた女医は、「では早速、超音波検査をやってみましょう」と検査室へ笑を誘導した。

「その子に最もふさわしい治療を行います」

暗い部屋でお腹を出し、エコーゼリーの塗られたプローブが押し当てられる。笑は医師と一緒に超音波のモニターに目をやった。脳・心臓・肺・腕と医師は順番に確認していく。

そう言えば、X病院で超音波検査を受けたとき、暗い検査室で研修医と思われる見学の医師が立ったまま目をつぶって眠りそうになっていたのを思い出した。部屋が暗いし、研修医は激務だろうから眠くなるのは分からないでもなかったが、あれはちょっと印象がよくなかった。

妊婦のおなか
写真=iStock.com/blueshot
※写真はイメージです

18トリソミーは「生存率10%」ではなかった

超音波検査が終わって笑と航は診察室に招かれた。女性医師の診断はX病院の診断と概ね同じだった。ただ決定的に違っていたのは、最も大事な治療方針だった。

笑の方から話を切り出した。

「前の病院では、18トリソミーで横隔膜ヘルニアがある場合、治療は行わないと言われたんです。死産になるかもしれないし、生まれてすぐに亡くなるかもしれませんと。治療をしても助からないので、治療はしないという説明でした。私たちは納得がいかないんです」

女医はすぐに軽やかな声で返事をした。

「18トリソミーに関係なく、普通のお子さんと変わらず、その子に最もふさわしい治療を行います。それでよろしいですね?」

笑の心はパッと明るくなった。心の中で(えー!)と叫んでいた。

「ご存知かもしれませんが18トリソミーは、治療しないと1年生存率が10%です。でも、治療をすれば30%になります。さらにうちで治療をすれば50%になります」

今度は(えええーーー?)と叫んでいた。