「生命の設計図に大きなエラーがある」。えみさんとわたるさんの夫婦が授かった子は、妊娠20週での健診で「18トリソミー」と告げられた。通常は2本である第18番染色体が3本になっているため、脳や心臓などに重篤な障害を合併する。夫婦を取材した小児外科医・松永正訓さんの著書『ドキュメント 奇跡の子 トリソミーの子を授かった夫婦の決断』(新潮新書)より一部を紹介する――。
新生児を抱く親の手
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1本多いと異常が出てしまう

笑と航は18トリソミーについて調べた。まずはノートパソコンを開いて検索することから始めた。調べ物は得意だった。仕事柄、勉強することは習慣化しているし、好きだった。

18トリソミー。18番目の染色体が3本ある状態。1本少なければ異常が出るという理屈は分かりやすいが、1本多いとなぜ異常が出るのか、その理由ははっきりと分かっていないという。染色体の番号が大きいほど、染色体のサイズは逆に小さい。おおまかに言って、染色体のサイズが小さければ載っている重要な遺伝子の数も少ない。

だから21トリソミーであるダウン症は患者が比較的多いし、障害の程度も穏やかだ。18トリソミーは、3500~8500人に一人の割合で生まれる。13トリソミーは、5000~12000人に一人の割合で生まれる。13トリソミーも18トリソミーも、心奇形や脳の形成不全などの重篤な障害を合併する。

13、18、21以外のトリソミーは存在しない。そういった受精卵は流産になるので、生まれてこない。正確な数は不明であるものの、妊娠早期の流産はほとんどが染色体のトリソミーという説も有力だ。

1年の生存率はわずか10%

18トリソミーも、生まれてくること自体が奇跡的だ。18トリソミーの受精卵は着床しても94%が流産・死産になり、生まれてくる確率は6%に過ぎない。

生まれながらの合併奇形は脳や心臓だけに留まらず、多数の臓器に及ぶ。予後は著しく不良で、従来の医学書には1カ月の生存率は50%、1年の生存率は10%と書かれていたらしい。

笑たちは調べれば調べるほど、18トリソミーは医療から見放された病気であることが分かってきた。「積極的な治療はしない」とか「看取りだけを行う」とかそういう言葉が目についた。

また検診で指摘された横隔膜ヘルニアも大変予後の悪い病気と知った。全体の治療成績は75%だが、これは軽症例も含めた数字である。この病気は診断が早期であればあるほど成績が悪くなる。ふつうの病気は早期発見で治療成績がよくなるが、横隔膜ヘルニアは逆だった。

胎児期の早い段階からヘルニアがあると肺が成熟せずに、生まれたあとに自力では呼吸できないのである。胎児超音波で横隔膜ヘルニアが見つかり、肺の容積が小さい場合、生存率は30%未満だという。

笑は勉強すればするほど、疑問が深まった。