認知症と物忘れの科学的な違い
本来記憶というのは、コンピューターで記憶するのと同様、目で見たことや、出来事を暗号化して神経細胞に留めておくことにほかなりません。神経細胞の一つ一つが暗号を記憶し、それを細胞間のネットワークで再構成することで、記憶の読み戻しをしています。
つまり、コンピューターでいうメモリーチップのプラスとマイナスの信号を二進法で記録し、それを言葉などの表現に変換しているのです。まさに、人間の脳でも同じような変換が行われ、記憶を形に戻されているわけです。
物忘れは神経細胞の一つのみが失われるので、ある事象だけが思い出せない現象です。
一方の認知症は脳細胞の塊が失われてしまうため、記憶の一部が失われるのではなく、記憶のネットワーク全体、つまり出来事全てが失われてしまうのです。とあるテレビ番組を見て、主人公の名前を思い出せないのが物忘れですが、認知症ではそのドラマ全体の記憶が失われます。
言い換えれば、物忘れは一部の記憶の喪失、認知症は全体の記憶の喪失です。物忘れは自分の名前など強く刻まれた記憶を忘れることはありませんが、認知症は自分の名前や自分の子どもの名前さえ忘れてしまいます。
このように、物忘れは病気ではありませんが、認知症は明らかな病気といえるのです。
ちなみに、お酒を飲みすぎると、そのときの記憶がなくなり二度と思い出せない場合がありますが、これは物忘れがまとめて起こった現象と思えば分かりやすいと思います。かなりの量の細胞がアルコールにより死滅し、記憶が失われていると思ってよいでしょう。
1 単なる物忘れは認知症の初期症状ではない
2 認知症の大きな特徴は、記憶障害の自覚がないこと