物忘れと認知症の違い

ところで、最近テレビコマーシャルを見ていて気になることがあります。ドラマ仕立ての一場面ですが、初老の夫人が買い物をして、お金を支払った後、商品を受け取らず帰ろうとする場面です。その「うっかり」に対してナレーションが入ります。「うっかり」をそのままにしないように注意喚起するものです。

いかにも単なる物忘れが認知症に進行してしまうかのような言い方です。単なる物忘れは認知症の初期症状ではありません。物忘れには、病気が原因で起こる場合と、病気の原因がないにもかかわらず忘れてしまう二通りがあります。

本稿ではこの病気が原因でない物忘れを、単なる物忘れと表現します。

単なる物忘れは年齢とともに増加することは事実ですが、単なる物忘れが多い人が認知症に移行しやすいという学術的データはありません。単なる物忘れは、脳の器質的な異常から生じる現象ではないので、ある程度の年齢の人であればあまり気にしすぎず、物忘れをなくそうとするよりもメモをとったり、写真に収めたり、忘れてしまっても大丈夫な対策を立てるほうがよいでしょう。

しかし、一般の人であれば物忘れと認知症による記憶障害とを簡単に識別はできません。日常生活に支障をきたすような場合や、進み方が速いなどの場合は認知症などの病的な物忘れを疑う必要があり、進行を止める手立てをしなければなりません。

物忘れをしている高齢者のイラスト
写真=iStock.com/matsuriri
※イラストはイメージです

物忘れと記憶障害を簡単に判別する方法

単なる物忘れと認知症による記憶障害とを簡単に判別する方法を紹介します。認知症と物忘れの違いは区別が困難に思いがちです。しかし、認知症による記憶障害と老化による単なる物忘れにはその内容に違いがあります。

図表1のように認知症における記憶障害は記憶の断片的な喪失ではなく、体験全体の記憶を喪失してしまうという特徴があります。また、認知症の場合には記憶障害の自覚がないことも大きな特徴といえます。

そこで、両者の違いを確認するテクニックとして、「最近のニュースで大きな出来事を教えてください」と尋ねると単なる物忘れの場合は何らかの回答があるはずです。

ところが、認知症の場合は「最近はニュースを見ない」など、取り繕った話をする場合が多いといわれています。認知症による記憶障害を疑う場合は図表1の項目に照らし合わせてみてください。これらの項目に多くあてはまる場合は医療機関での検査を受けるようにしてください。

認知症による特徴
・ やる気がなく、だらしなくなった
・ ささいなことで怒りっぽくなった
・ 同じことを何度も聞いたり話したりする
・ テレビを見ても内容が理解できない
・ 約束をすっぽかす
・ 近所でも迷子になることがある
・ 趣味や日課に興味を示さなくなった
・ 今日が何月何日か分からない
・ 料理、計算、運転などのミスが目立つ
・ ついさっき電話で話した相手の名前が分からない
・ 置き忘れや片付けたことを忘れ、常に探し物をしている
・ 財布を盗まれたなどと人を疑うことがある

このように認知症と物忘れには明らかな違いがあります。これを少し科学的な違いで説明してみましょう。