認知症にはどのように備えればいいのか。医師で作家の久坂部羊さんは「早期発見・早期治療が重要だといわれるが、治療や予防の方法は確立されていない。むしろ、早期発見で本人も周囲も認知症を強く意識することで、ストレスを抱えるリスクがある」という――。(第2回)

※本稿は、久坂部羊『人はどう老いるのか』(講談社現代新書)の一部を再編集したものです。

椅子に座って窓の外を見ている高齢者
写真=iStock.com/koumaru
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医療にはいい面と悪い面がある

何事にもいい面と悪い面があります。医療も同じです。

ところが、医療者が医療のいい面ばかりしか語らないので、世間は医療幻想ともいうべき状態に陥っています。医療の進歩はすばらしい、これまで治らなかった病気も治るようになった、医療にかかれば安心、健診や検診を受けておけば大丈夫――。

しかし、医療の悪い面を知っている私としては、この状況に不健全なものを感じざるを得ません。医療の限界や不備、不条理や不確実性などに目を向けず、漫然と安心していていいのか。医療の悪い面も知ることが、患者さんと医療者の健全な関係につながるのではないか。そう思うのですが、ネガティブな話には耳を傾けたくないという人も多いようです。

医療者もまた、医療のネガティブな話は語りたがりません。それを語ることは自己否定につながるからです。だれしも自分のやっていることの悪い面は話したくはないでしょう。しかし、医者同士の飲み会に行くと、世間にはとても聞かせられないような話がポンポン飛び出します。

たとえば、無駄な検査や治療は収益を上げるためとか、CTスキャンで浴びる放射線は恐ろしいとか、外科医だって二日酔いや夫婦喧嘩のあとは手術の調子が悪いとか、念のためという便利な言葉で薬と検査を追加するだの、がん検診は穴だらけだの、がん難民という言い方はメディアが作った言いがかりだの、認知症は治らない、予防もできない、でもほんとうのことを言うと患者さんが来なくなるので言わない等々です。