充実した老後を過ごすにはどうすればいいのか。医師で作家の久坂部羊さんは「『いつまでも元気で長生きしたい』と考えないほうがいい。どれだけ努力しても老化は避けられないため、努力した人ほど『こんなに頑張ったのに』と落ち込んでしまう」という――。(第3回)

※本稿は、久坂部羊『人はどう老いるのか』(講談社現代新書)の一部を再編集したものです。

椅子から立ち、外を眺める高齢者
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長寿志向につけこむ「健康ビジネス」

いつまでも元気で長生き――。それは万人の望みでしょう。

可能なかぎり元気でいたい。若々しくありたい。健康でいたい。介護など受けずにいたい。何かそれを実現する特別な方法があるのではないか。

こういう欲望につけこむビジネスが、巷にはあふれています。効くはずのないサプリメントや健康食品。通販で「今がお得」「初回にかぎり半額」「1カ月無料でお試し」「今すぐお電話を」と視聴者の心をくすぐり、急かして購買に導くあざとさには、義憤さえ感じます。

急激な体重減少を保証したり、過剰なビタミン摂取を勧めたり、顔や身体に異物を注入したりと、健康に悪いに決まっている行為をそそのかす美容業界は、スマートになりたい、美しくなりたい、コンプレックスを克服したいなどの欲望につけこみ、長期予後など考えずに金儲けにいそしんでいます。

医療界も十分な根拠のない認知症の予防や、がん予防の情報を垂れ流し、健診業界はおためごかしの情報で人々の歓心を買い、逆に健康診断や検診をサボっていたら大変なことになると脅して、受診者を増やそうとしています。製薬業界は少しでも早く、少しでも多く、少しでも長く薬を服用してもらえるよう、医者におもねって正常値を厳しくし、メディアのCMで売り上げを伸ばそうとしています。